朝鮮学校における高校授業料の無償化裁判の経緯と概要

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先日(2018年9月27日)、大阪高裁における朝鮮学校の授業料無償化に関する訴訟の控訴審裁判で、原告(控訴被告)である朝鮮学校側の主張を退ける判決がありました。

この裁判は、国が開始した高等学校の授業料無償化制度の適用を受けるため申請を行った大阪朝鮮高級学校(以下、「朝鮮学校」といいます)が、国によって制度の対象から除外された処分の是非が問われた裁判です。

一審の大阪地裁の判決では朝鮮学校の主張が認められていましたが、今回の控訴審判決では朝鮮学校の主張は退けられ、国の処分が適法であったと国の主張を認める判決が出されています。

この国側勝訴の控訴審判決について菅官房長官は記者会見で「(朝鮮学校が)法令に基づく適正な学校運営について十分な確証を得られず、審査基準に適合すると認められるに至らなかったことなどを理由として文部科学省が法令の趣旨に基づいて適切に判断したという国の主張が控訴審で認められた結果だ」という趣旨の見解を述べています。

ですから、政府としては朝鮮学校に対して高校授業料無償化の適用を排除した国の処分について、法令に基づいて粛々と判断した結果であり問題ないと考えていることが分かります。

一方、この控訴審裁判で敗れた原告の朝鮮学校側(の代理人弁護士)は、この控訴審判決を「不当判決」と受け止めていますので、朝鮮学校側からしてみれば国の処分は受け入れられるものではありません。

では、この朝鮮学校における高校授業料無償化の問題は、具体的にどのような点が国側の処分において不当といえるのでしょうか。

朝鮮学校における高校授業料の無償化の裁判についてはネット上でも様々な意見が出されていますが、そもそもこの事件がどのような経緯で裁判になったのかを正確に理解しておかなければ建設的な議論ができません。

そこでこのページでは、この朝鮮学校における高校授業料無償化の裁判が具体的にどのような経緯で裁判になり、具体的にどのような問題が争点になっているのか、という点について改めて確認してみることにいたしましょう。

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朝鮮学校の高校授業料無償化訴訟の経緯と概要およびその争点

先ほども述べたように、朝鮮学校の高校授業料無償化問題を考える場合には、そもそもまずこの高校授業料の無償化に関する訴訟が具体的にどのような問題に関する裁判なのかという点を理解しなければなりません。

この点、この朝鮮学校の高校授業料無償化に関する国の処分が訴訟に発展した経緯は、第一審である大阪地裁の判決原文(大阪朝鮮学校授業料無償化差別事件:大阪地裁平成29年7月28日)と朝鮮学校側の弁護団長が記述した『「歴史的な大阪朝鮮学校への無償化勝訴判決」弁護団長・丹羽 雅雄 | 論壇』で詳しく解説されていますので、それらの記述を参考に確認してみましょう。

ことの発端は、2010年(平成22年)の4月1日に施行された「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律(以下、「高校無償化法」といいます)」の成立までさかのぼります。

この新たに制定された高校無償化法は、外国人学校に通う生徒にも平等に就学支援金を支給するという意味で画期的な法律でしたので、朝鮮学校においてもその適用対象となるべく、高校無償化法に基づいた申請が行われることになりました。

しかし、朝鮮学校は法的には「各種学校」という位置づけにされていますので、その高校無償化法の申請も通常の「高等学校等」ではなく「各種学校」として行わなければなりません。

具体的には、高校無償化法は「各種学校」に分類される学校をその第2条5号で「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」と定義し、その文部科学省令は「高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則(以下、「施行規則」といいます)」で定められていましたので、朝鮮学校が「各種学校」として高校無償化の適用を受けるためには、その施行規則に定められた「各種学校」の適用要件を満たすものとして申請を行う必要があったわけです。

この点、高校無償化法の施行規則では、以下のように第1条1項2号で(イ)(ロ)(ハ)の3つの「各種学校」について授業料無償化の適用を受けられると規定していました(※現在はこの第1条1項2号の規定は第1条1項4号として規定されています)。

【高校無償化法施行規則第1条※制定当時】

第1項 公立校等学校に係る授業料の不徴取及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律(中略)第二条第一項第五号に掲げる専修学校及び各種学校のうち高等学校の過程に類する過程を置くものとして文部科学省令で定めるものは、次の各号に掲げるものとする。
一 専修学校の高等過程
二 各種学校であって、我が国に居住する外国人を専ら対象とするもののうち、次に掲げるもの
 (省略)。
 イに掲げるもののほか(中略)。
 イ及びロに掲げるもののほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの
(以下省略)

※出典:公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則の一部を改正する省令案新旧対照条文を基に作成

そして、この施行規則1条1項2号の「ハ」のいう「文部科学大臣が指定したもの」については「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第一条第一項第二号ハの規定に基づく指定に関する規程(平成二十二年十一月五日文部科学大臣決定)」として定められていましたが、その内容は朝鮮学校もその基準を満たすものでした(※というよりも、そもそもこの文部科学大臣決定自体が朝鮮学校を高校授業料無償化の指定対象として認めることを前提として調査・議論したうえで決定されたものでした※参考→高等学校等就学支援金の支給に関する検討会議(第1回)議事要旨)。

そのため朝鮮学校は、この施行規則第1条1項2号の「ハ」に該当するものとして、2010年(平成22年)年11月27日に授業料無償化の適用申請を行うことにしたのです。

しかし、同様に「1条1項2号(ハ)」として申請した他の2校の外国人学校が授業料無償化の指定を受けたにもかかわらず、朝鮮学校だけが指定を受けられませんでした。その申請の2日前の11月25日に、韓国の延坪島で北朝鮮軍による砲撃事件(延坪島砲撃事件|wikipedia)が発生したことに関連して文部科学大臣が高校無償化の指定審査手続きを停止させてしまったからです。

この審査手続の停止措置は2011年(平成23年)の8月29日に解除されましたが、審査手続が再開された後も朝鮮学校の授業料無償化の審査結果が出されない状態が続きました。

そうした中、2012年(平成24年)の12月に第二次安倍政権が発足すると、同年12月28日、当時の下村文部科学大臣が記者会見で、北朝鮮において拉致問題の進展がないこと、また朝鮮学校が朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいること等の事情があることを理由に、前述した施行規則第1条1項2号から「ハ」を削除する省令の改正を行うこと、またその省令改正に先立ってパブリックコメント(※国や自治体が公的な規則や命令などを定める際に国民・住民から広く意見や情報を募集する手続)を実施することを発表します。

まず、無償化に関する朝鮮学校の扱いについて報告をいたします。本日の閣僚懇談会で、私から、朝鮮学校については拉致問題の進展がないこと、朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいること等から、現時点での指定には国民の理解が得られず、不指定の方向で手続を進めたい旨を提案したところ、総理からもその方向でしっかり進めていただきたい旨の御指示がございました。このため、野党時代に自民党の議員立法として国会に提出した朝鮮学校の指定の根拠を削除する改正法案と同趣旨の改正を、省令改正により行うこととし、本日からパブリック・コメントを実施することにいたします。なお、今後、朝鮮学校が都道府県知事の認可を受け、学校教育法第1条に定める日本の高校となるか、又は北朝鮮との国交が回復すれば現行制度で対象と成り得ると考えているところでございます。

(※下村博文文部科学大臣記者会見録(平成24年12月28日):文部科学省から引用)

そして、実際にその当日の2012年(平成24年)12月28日から翌2013年(平成25年)1月26日にかけてパブリックコメントを実施し、2013年(平成25年)2月20日に前述した施行規則第1条1項2号から「ハ」の事項を削除する省令の改正を実施してしまいました。

またその省令改正を行った同日、朝鮮学校には「ハの規定を削除したこと及び規程第13条に適合すると認めるに至らなかった」との理由で、授業料無償化の申請について不指定の処分が出されてしまいます。

このような経緯がある中で、授業料無償化の指定が受けられなくなった朝鮮学校が、国に対して処分の取り消しと指定の義務付けを求めているのが、今回の朝鮮学校による高校無償化の裁判ということになります。

参考サイト