「安倍やめろ!」のヤジで市民が警察から排除された場合の対処法

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15日に札幌市内で行われた安倍首相の参議院議員選挙に関する応援演説において、「安倍やめろ!」とヤジを飛ばした一般市民が数人の警察官に取り囲まれ押さえつけられ、演説現場から排除された場面を撮影した映像がネット上で拡散され話題になっています(※排除されたご本人の書いた記事はこちら→https://note.mu/s_ohsg1/n/n459263e58af1)。

この件に関しては、「選挙演説に対するヤジは演説妨害だから逮捕されて当然だろ」などという意見もありますが、公職選挙法の演説妨害については「暴れて注目を集めたり、街宣車で大音響を立てたりする行為」がそれにあたり、「肉声でヤジを飛ばす行為は含まれない」という専門家の指摘(※参考→ ヤジの市民を道警が排除 安倍首相の街頭演説中 – 2019参議院選挙(参院選):朝日新聞デジタル)もありますので、本件のヤジ行為は公職選挙法225条2号の「演説を妨害したとき」には該当しないと考えるべきでしょう。

【公職選挙法第225条】

選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、4年以下の懲役若しくは禁錮こ又は100万円以下の罰金に処する。
一 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。
二 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀き棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき。
三 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者若しくは当選人又はその関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の利害関係を利用して選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人を威迫したとき。

松宮孝明・立命館大法科大学院教授(刑法)は「判例上、演説妨害といえるのは、その場で暴れて注目を集めたり、街宣車で大音響を立てたりする行為で、雑踏のなかの誰かが肉声でヤジを飛ばす行為は含まれない」と話す。むしろ連れ去った警察官の行為について「刑法の特別公務員職権乱用罪にあたる可能性もある」と指摘。「警察の政治的中立を疑われても仕方がない」と話した。

※出典:ヤジの市民を道警が排除 安倍首相の街頭演説中 – 2019参議院選挙(参院選):朝日新聞デジタル より引用

このように、本件に関しては公職選挙法違反にあたる事実は存在しなかったと言えますので、そもそも北海道警の警察官が何を根拠にヤジった市民を排除したのかという点に疑問が生じます。

また、本件における市民の排除を北海道警察は「トラブル防止と、公職選挙法の『選挙の自由妨害』違反になるおそれがある事案について、警察官が声かけした(※ ヤジの市民を道警が排除 安倍首相の街頭演説中 – 2019参議院選挙(参院選):朝日新聞デジタル より引用)」とコメントしているようですが、ネット上で拡散されている映像を見る限り明らかに警察官は複数人で取り囲み、両腕を押さえつける形で引きずるように演説現場から排除しており、その警察官が行った行為は到底「声をかけた」などというものではなく、それは強力の行使そのものであって客観的には逮捕にしか見えません。

そうすると、本件は警察官が法的根拠なく一般市民を暴行を用いて逮捕したということになりますから、前掲した朝日新聞の記事でも指摘された特別公務員職権濫用罪(刑法第194条)の該当性について北海道警察には真摯な説明が求められていると言えるでしょう。

【刑法第194条】

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処する。

ところで、今回の法的根拠に基づかない市民の排除が、政府から北海道警察に依頼して行われたものなのか、北海道警察が政権を忖度して独自の判断によって行ったのか定かではありませんが、今の日本で法的根拠に基づかない警察権力による「ヤジの排除」が現実に行われている以上、北海道以外の地域でも、選挙演説中のささやかなヤジで排除(事実上の逮捕)されてしまう可能性は否定できません。

また、このような法的根拠に基づかないヤジの排除が常態化すれば、ツイッターやブログで政権の批判を行っただけで警察権力から「選挙妨害」の疑いをかけられ逮捕(あるいは任意同行を口実にした事実上の監禁)されてしまう危険性も考えられます。

では、実際に誰かの選挙演説中に”公職選挙法に違反しない程度の態様”で「○○やめろ!」などとヤジを行って警察官から排除(事実上の逮捕)された場合、具体的にどのような対処ができるのでしょうか。検討してみます。

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警察法第79条に基づく「苦情申出制度」

警察官に限らず、公務員の違法な(法的根拠に基づかない)行政行使により被害を受けた場合は、国家賠償法に基づいて国家賠償請求を行うという方法がまず考えられますが、国家賠償請求は裁判になり弁護士を雇う必要がありますのでハードルが高すぎます。

また、本件のように暴力を用いて演説現場から排除されたといっても、怪我をしたり拘留されたような事実がないケースでは、弁護士を雇って裁判を行うこと自体、メリットが少なく現実的ではありません。

では、このようなケースで一般市民でも簡単に取り得る対抗手段が全くないのかというとそうでもありません。警察法の第79条に規定されている「苦情申出制度」が使えます。

警察法の79条では、「都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者」であれば、誰でも「都道府県公安委員会」に対して「文書」で「苦情の申出」をすることが認められていますので、本件のように、警察官から法的根拠に基づかない「ヤジの排除」を受けた場合にも、この「苦情申出制度」を利用して公安委員会に苦情を申し出ることが可能でしょう。

【警察法第79条】

第1項 都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し、国家公安委員会規則で定める手続に従い、文書により苦情の申出をすることができる。
第2項 都道府県公安委員会は、前項の申出があつたときは、法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 申出が都道府県警察の事務の適正な遂行を妨げる目的で行われたと認められるとき。
二 申出者の所在が不明であるとき。
三 申出者が他の者と共同で苦情の申出を行つたと認められる場合において、当該他の者に当該苦情に係る処理の結果を通知したとき。

この苦情申出制度を利用して公安委員会に苦情を申し出た場合は、申し出を受けた公安委員会は警察庁に調査の指示を行わなければならず、その指示を受けた警察庁は事実関係を調査し、その調査結果と具体的にとった措置を公安委員会に報告して、公安委員会がその結果を申出人に通知しなければなりません(※警察法第78条の2に係る解釈・運用基準参照)。

ですから、もし仮に選挙演説が行われている現場で「☆☆やめろ!」などとヤジを飛ばして警察官から実力で排除されてしまった場合には、その場はおとなしく従うとしても(※無理に抵抗すれば公務執行妨害で逮捕される危険もあります)、自宅に帰ってから警察法第79条の苦情申出制度の申出書を作成して、違法行為のあった警察と同じ地域の公安委員会に送付してみるというのも一つの方法ではないかと思います。

なお、申し出は「書面」で行うことが法律で義務付けられており、必ず書面で作成し公安委員会に郵送(または持参)する必要がありますので注意しましょう(FAXやメールでの添付はNGです)。

ちなみに、実際に苦情を申し出る場合の苦情申出書の記載例をつくりましたので参考にしてください。

申出書

(警察法第79条に基づく)

〇年〇月〇日

◇◇県公安委員会 御中

 ◇◇県警察職員の職務執行に関する行為について、警察法第79条に基づき、下記のとおり苦情を申し出ます。

1 申出人の氏名(名称)及び住所並びに電話番号

  氏名又は名称: 安倍 矢目郎 ㊞←註

  住所: 山口県長門市〇〇四丁目〇番〇号〇〇マンション〇号室

  電話番号: 080-****-****

2 住所以外の連絡先へ処分結果の通知を希望する場合の連絡先等

  住所:なし(同上)

  電話番号:なし(同上)

3 苦情申出の原因となった警察職員の職務執行の日時及び場所並びに当該職務執行に係る警察職員の執務の態様その他の事案の概要

申出人が20XX年〇月〇日午後3時ごろ、○○駅前に参議院選挙の応援演説のため訪れていた☆☆首相の演説中に「☆☆やめろ!」と複数回、いわゆるヤジを叫んだところ、周りにいた◇◇県警の私服警察官4~5人に取り囲まれ、両腕を強い力で捕まえられ押さえつけられる形で強引に引きずられ、演説現場の後方に排除させられた。

4 苦情申出の原因となった警察職員の職務執行により申出者が受けた具体的な不利益の内容又は当該職務執行に係る警察職員の執務の態様に対する不満の内容

(1)具体的不利益

申出人は☆☆首相の国政運営に常々不満を持っていたため直接☆☆首相に意見する機会を熱望していたが、たまたまSNS上で「#会いに行ける国難」のハッシュタグが付けられた投稿を見つけ、○○駅前で演説するとの情報を得たことから苦情申出の原因となった警察官の職務執行を受けた演説場所に赴いた。

しかしながら、「☆☆やめろ!」と叫んだところで◇◇県警の警察官らに取り押さえられ引きずり出されたため、◎大学の獣医学部新設に絡む疑惑や年金問題、アホノミクス政策の失敗や米軍基地新設問題、外国人学校無償化差別問題やポンコツ戦闘機購入問題、憲法違反の憲法解釈変更や公文書・統計データ改ざん、いわゆる”ケチって火炎瓶問題”など、その他数え上げればきりがない諸々の批判を告知することができなくなることによって事実上、☆☆首相に直接意見する機会を奪われてしまう不利益を受けた。

また、かかる表現行為の妨害は憲法21条で保障された表現の自由を制限するものである。

(2)警察職員の態様等に関する不満等

本件で警察官に取り押さえられた際、警察官に対して何を根拠に有形力を行使して演説場所から排除したのか、罪状は何なのか尋ねたが「まあまあ落ち着いて」「他の人の迷惑になるから」などと言うのみで逮捕とも同視できる警察力の行使にいたった具体的な法的根拠は何ら明示されなかった。

また、警察官に対して最高裁の判例(最高裁昭和23年12月24日: 昭和23(れ)1324号)は演説妨害に当たる具体的ケースを「聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為があつた」場合と判示していることなどを説明し、「☆☆やめろ!」とヤジを飛ばす程度の行為は公職選挙法の演説妨害にはあたらない旨説明したが、当該行為にかかわった警察官は一切取り合おうとしなかった。

かかる警察官の行為は、法的根拠に基づかない警察力の行使であり、特別公務員職権濫用罪(刑法第194条)にあたるもので到底是認できるものではない。また法的根拠に基づかない逮捕は「逮捕の要件(憲法33条)」や「抑留・拘禁の要件、不法拘禁に対する保障(同34条)」を侵害するのみならず、「表現・言論の自由(憲法21条)」を損なう基本的人権の問題でもあり極めて重大な事案であるから、本件に関しては詳細に調査し厳重な措置がなされることを望む。

5 備考

なお、本件苦情申出の原因となった現場を撮影した動画を動画共有サイト「YouTube」にアップロードしているので確認されたい(投稿先URL→https://youtu.be/******)。

以上

※上記記載例は当サイト管理人が個人的な見解で作成したものです。上記記載例を参考に苦情申出を行うことで何らかの不利益や損害が生じても当サイト管理人は一切の責任を負いませんのでその点を了承のうえ参考にしてください。

※註:国家公安委員会規則で「署名又は押印」が必要とされているようですので、署名(自署・サイン)する場合は印鑑は不要です(国家公安委員会規則第11号「苦情の申出の手続に関する規則」第2条)。

※上記の申出書は東京都公安委員会の『お知らせ | 東京都公安委員会 Tokyo Metropolitan Public Safety Commission』のページを参考に作成しました。

※データがない場合は備考の欄は削除しても構いません(※証拠の添付は必須ではないので必ずしも記載例のように記載する必要はありません)。なお、撮影データ等を資料として直接送付する場合は「なお、本件苦情申出の原因となった現場を撮影した動画があるので電子データを添付する(CDRAM1枚)」などと記載してデータを保存した記録媒体を封筒に同封すればよいでしょう。

※なお、上記の申出書は当サイト管理人の個人的見解で作成したものです。警察法第79条に基づく苦情申出制度で提出する申出書は上記のような記載例でなくても問題ありません。詳しくは「警察法第78条の2に係る解釈・運用基準」もしくは各地の公安委員会にお尋ねください。

※障害などで苦情申出書の作成が困難な場合は公安委員会で口頭で陳述し代書してもらうことで申出が可能です(国家公安委員会規則第11号「苦情の申出の手続に関する規則」第3条)。

※公官庁はすべての書類をA4で統一していますので、プリントアウトする際はできるだけA4用紙を使用するようにしてください(※ただし用紙サイズは法定ではありませんのでなければA4以外でも構いません)。

※実際に郵送する場合は公安委員会から「申出書は受け取っていない」などと抗弁される危険を避けるため、郵送記録の残される特定記録郵便等を利用するようにした方がよいでしょう。

警察法第79条の「苦情申出制度」に処分の強制力はない

なお、この苦情申出制度はあくまでも「苦情を申し出る」制度に過ぎず、警察官の具体的な処分や警察幹部の処分に強制力を持つものではありませんので、警察庁が調査を行ったとしても「違法性はない」などという通り一遍の回答しかなされない可能性もあります。もっとも、それでも「警察に自浄作用はない」ということが証明できるので、この制度を利用する価値はあると思います。

苦情申出制度は違法な職務質問などについても使える

このページで紹介した警察法第79条に基づく苦情申出制度は、選挙演説でのヤジ排除だけでなく、違法な職務質問(「職質は任意」と言いながら警察官が立ちふさがって行く手を遮り、事実上路上で監禁するような職務質問のケース等)など、警察官の違法行為や不当な行為があれば他の場合にも利用することが可能です。

なお、具体的にどのような警察官の行為について苦情申出制度が利用できるかについては 「警察法第78条の2に係る解釈・運用基準」 に記載されていますので参考にしてください。

参考

警察法第79条に基づく苦情申出制度の具体的な利用方法については、東京都公安委員会のサイトがわかりやすいと思います。

http://www.kouaniinkai.metro.tokyo.jp/osirase.html

なお、全国の公安委員会の住所はこちらから調べてください。

https://www.npsc.go.jp/pref/



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21条(集会/結社/表現の自由) 34条(抑留/拘禁の要件等)
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