自民党憲法改正案の問題点:第47条2項|「一票の格差」を合憲に

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憲法の改正に執拗に固執し続ける自民党が公開している憲法改正草案の問題点を一条ずつチェックしていくこのシリーズ。

今回は、選挙区と投票方法その他の選挙に関する事項について規定した現行憲法の第47条に第2項を新設した自民党憲法改正草案第47条2項の問題点を考えてみることにいたしましょう。

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選挙区に人口以外の要素を「総合的に勘案」させる規定を新設した自民党憲法改正案第47条2項

現行憲法の第47条は選挙区と投票方法その他衆参両院議員の選挙に関する規定を置いていますが、この規定は自民党憲法改正草案第47条にもそのまま置かれています。

ただし、自民党改正案では第2項に各選挙区の選定に関する規定を新たに追加していますので注意が必要です。

では、具体的にどのような規定が第2項に新設されたのか、現行憲法と双方の条文を確認してみましょう。

日本国憲法第47条

選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

自民党憲法改正草案第47条

第1項 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
第2項 この場合においては、各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

このように、自民党改正案は第2項に選挙区に関して、人口を基本としながらも、行政区画や地勢などを総合的に勘案してその区割りを定めるべきことを明示的に義務付ける規定を新たに設けています。

では、こうした規定の新設は具体的にどのような問題を生じさせ得るのでしょうか。検討してみましょう。

「一人一票」の原則が損なわれ続けている「一票の格差」の問題

このように、自民党憲法改正草案第47条は第2項に選挙区の区割りに関する規定を新設していますが、この規定の問題点を考える前提として、「一票の格差」の問題を理解してもらわなければなりませんので、その点を簡単に解説しておきましょう。

「一票の格差」の問題とは、憲法の教科書では議員定数不均衡の問題として「国会議員の選挙において、各選挙区の議員定数の配分に不均衡があり、そのため、人口数(もしくは有権者数)との比率において、選挙人の投票価値(一票の重み)に不平等が存在することが違憲ではないか、という問題(※芦部信喜著、高橋和之補訂「憲法」138~139頁)」などと説明されている問題の事を言います。

簡単に言えば「一人一票」の原則が守られていない問題のことです。

現行憲法の前文は「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」「主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定」して「国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使」すると述べていますから、主権者である国民によって選ばれた代表者である議員に国政を委ねる代表民主制を採用していることは明らかです。

日本国憲法:前文(※前半部分)】

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

そうであれば、その代表者を選ぶ選挙の正当性の根源は国民の持つ主権に他なりませんので、その主権者がその選挙で行使する投票の価値も不均衡なものであってはなりませんから、「一人一票」の原則は、国民主権の基本原理から導かれる選挙の概念上当然のものなのであって、その「一人一票」の原則を損なう定数不均衡の状態は原理的に許容されないものと言えます。

もちろん、現行憲法は第14条で「法の下の平等」を保障していますから、議員定数に不均衡が生じることは基本的人権の側面からも違法性のあるものであって「一人一票」は当然に要請されるものと考えられます。

日本国憲法第14条1項

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

しかし、現実の選挙においてはその「一人一票」の原則は長年にわたって守られていない状況が続いてきました。

たとえば衆議院選挙では、昭和47年12月10日の選挙で「4.99倍」に、昭和58年6月22日の選挙で「3.94倍」に、昭和58年12月18日の選挙で「4.40倍」に、昭和61年7月6日の選挙で「2.92倍」に、平成2年2月18日の選挙で「3.18倍」に、平成19年8月30日の選挙で「2.3倍」に一票の価値の最大格差が開いたことが問題となっていますし、参議院選挙でも、昭和37年7月1日の選挙で「4.09倍」に、平成4年7月26日の選挙では「6.59倍」に、平成13年7月29日の選挙で「5.06倍」に、平成19年7月29日の選挙で「4.86倍」に格差が生じていて、「一票の格差」は守られていない状況が続いています(※芦部信喜著、高橋和之補訂「憲法」138~145頁)。

この点、これらの格差の違憲性が争われた裁判で最高裁は合憲の判断を出したケースもありますが、『違憲違法』や『違憲状態』などその違憲性を指摘したケースも少なからず存在しますので、その違憲性・違法性は最高裁判所も認めるところです。

※たとえば格差が「4.99倍」だった昭和47年12月10日の衆院選について最高裁が『違憲違法』の判決(最判昭和51円4月14日)を出した事例があるほか、最大格差が「3.94倍」だった昭和58年6月22日の衆院選や(最判昭和58年11月7日)、「3.18倍」だった平成2年2月18日の衆院選(最判平成5年1月20日)、「2.3倍」だった平成19年8月30日の衆院選(最判平成23年3月23日)などでも『違憲状態』と判示して、現在の選挙制度が憲法に違反して「一人一票」の原則が具現化されていない違憲性(違法性)を指摘してきました(※ただし事情判決の法理から選挙結果自体は無効とはされていません)(※参考→https://www.ippyo.org/topics/saiban.htmlhttps://www.ippyo.org/topics/pdf/ippyo_saiban_A3.pdf)。

また、学説でも参議院議員選挙では「地域代表的性格を持つ」などの特殊性を理由に立法府の裁量を広く認める見解があり「2.0倍」から「5.0倍」まで格差を認める説まで意見が割れているものの、衆議院選挙においては合理的な理由もなく選挙区間で「2.0倍」以上格差が広がる場合は違憲とする解釈が広く支持されていますから(※芦部信喜著、高橋和之補訂「憲法」138~145頁)、こうした「一人一票」の原則が守られていない現状は、明らかに違憲・違法な状態にあると言えます。

ちなみに、「一人一票」訴訟の代理人も務めた弁護士の升永英俊氏によれば、小選挙区における最大区と最小区の人口差は日本が「29万人」である一方、アメリカでは小選挙区制をとる下院議員選挙でもその格差は「1人」しかないそうですから(※2013年の記事→https://facta.co.jp/article/201304016.html)、民主主義を徹底するアメリカと比較して日本の異常性が良くわかるでしょう(※つまりアメリカでは「1.0倍」を超える投票格差を徹底して排除し「一人一票」の原則の具現化を図っているということ)。

このように、現在の日本では国民主権の要請から原理的にも当然に求められる「一人一票」の原則が実現されているとは到底言えない状況が続いていますから、この議員定数不均衡問題を改善し「一人一票」の原則を実現させることは、喫緊の課題として指摘され続けている状況にあるわけです。

「一人一票」の原則が具現化されていない今の状況は、選挙自体が「多数決」ではなく「少数決」によって決せられているということですから、民主主義の根幹である「多数決」が機能していないということに他なりません。

またそうした議員定数不均衡の状態が最高裁で「違憲状態」や「違法状態」を指摘されているという状況は、その違憲・違法な状態の選挙によって組織された国会(立法府)や、その国会の指名によって任命された内閣総理大臣までもが「違憲状態」や「違法状態」ということになり得ますから、国家の統治システム全体が「違憲状態」であって「違法状態」が継続しているということになります。

そうした「違憲状態」や「違法状態」が放置された国会(立法府)で、憲法改正案を発議しようとしているのが今の自民党政権であって、その「違憲状態」や「違法状態」にある国会によって指名された「違憲状態」や「違法状態」にある内閣総理大臣が率先して憲法改正を実現しようとしている異常な状況にあるのが、今の日本であるとも言えるのです。

自民党はQ&Aで憲法改正草案第47条に新設された第2項を「一票の格差」の問題と関連付けている

このように、現在の日本では「一人一票」の原則が具現化されておらず議員定数不均衡が「一票の格差」の問題を惹起させているわけですが、自民党が新設した第47条第2項も、この「一票の格差」の問題を背景にしたものと思われます。

なぜなら、自民党は憲法改正草案と並行してその条文に関するQ&Aを公開していますが、その中で第47条に2項を新設した趣旨について次のように説明しているからです。

Q26 国会議員の選挙制度に関する規定を変えたのは、なぜですか?

 47条(選挙に関する事項)に後段を設け、「この場合においては、各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない」と、規定しました。これは最近、一票の格差について違憲状態にあるとの最高裁判所の判決が続いていることに鑑み、選挙区は、単に人口のみによって決められるものではないことを、明示したものです。ただし、この規定も飽くまで「人口を基本と」することとし、一票の格差の是正をする必要がないとしたものではありません。選挙区を置けば必ず格差は生ずるので、それには一定の許容範囲があることを念のため規定したに過ぎません。

なお、この規定は、衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条の規定を参考にして加えたものであり、現行法制を踏まえたものです。

(参考)衆議院議員選挙区画定審議会設置法
第3条 前条の規定による改定案の作成は、各選挙区の人口の均衡を図り、各選挙区の人口(官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準ずる全国的な人口調査の結果による人口をいう。以下同じ。)のうち、その最も多いものを少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない。

※出典:日本国憲法改正草案Q&A|自民党 21頁を基に作成

このように、自民党は先ほど説明したような現在の選挙制度で「一人一票」の原則が守られていないことで「違憲状態」や「違法状態」を指摘する最高裁判例があることに「鑑み」て、第47条の2項に先ほど引用した条文を新設したと説明していますので、その条文新設の背景に「一票の格差」の問題があり、その「一票の格差」による「違憲状態」に対処することが第2項を新設した目的であることが伺えるわけです。

自民党憲法改正草案第47条2項は「違憲状態」にある現在の選挙制度を合憲にして「一人一票」の原則の具現化を放棄させるためのもの

しかし、この自民党のQ&Aの説明が述べているような趣旨で改正案の第2項を新設したとすると、大きな問題を生じさせます。

なぜなら、自民党が第2項を新設した趣旨がQ&Aで説明したように「選挙区は、単に人口のみによって決められるものではないことを、明示した」ものであるとすれば、最高裁が「違憲状態にあること」を指摘して国(立法府)にその「違憲状態」を改善させて「一票の格差」を解消することを求めているにもかかわらず、その「違憲状態にあること」が改善されるどころか、その「違憲状態」にある現在の選挙制度をそのままの状態で「合憲」と説明できるようになってしまうからです。

(1)「単に人口のみによって決められるものではないことを、明示した」のなら「違憲状態にある」現在の選挙制度は何も改善されないことになる

先ほど引用したように、自民党のQ&Aは改正案第47条2項を新設した趣旨を「一票の格差について違憲状態にあるとの最高裁判所の判決が続いていることに鑑み、選挙区は、単に人口のみによって決められるものではないことを、明示したものです」と説明していますから、自民党が国政選挙の選挙区を、「人口のみ」ではなく「人口を基本とし」ながらも「行政区画、地勢等を総合的に勘案して」定めることを憲法上の要請として位置付けたいと考えていることが分かります。

自民党憲法改正草案第47条

第1項 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
第2項 この場合においては、各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

つまり自民党は、選挙区の区割りを「人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して」定めたいと考えているからこそ改正案第47条2項を新設したわけです。

しかし、選挙区を「人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して」定めるということは、選挙区の区割りに人口以外の要素である「行政区画」や「地勢等」を含めて「総合的に勘案」するということですから、その場合の選挙区の人口格差は「1.0倍」でなくてもよいということになります。

選挙区を「人口のみ」で定めることが要請されるなら先ほど挙げたアメリカの例のように小選挙区制であっても最大区と最小区の人口差は「1人」まで縮めなければなりませんが、「人口」以外の「行政区画」や「地勢等」の要素を含めて「総合的に勘案」しなければならないのなら、立法上の措置として人口差が生じることはあらかじめ許容されることになるので最大格差を「1人」にまで縮めることは求められないからです。

選挙区の区割りに「人口を基本とし」ながらも「行政区画、地勢等を総合的に勘案して」よいのであれば、制度的には選挙区ごとの人口格差はその「総合的に勘案」される範囲で立法府の裁量が許されることになりますから、「一人一票」の原則を徹底しなくてよいことになってしまうのです。

しかしそれは、現状で生じている「一票の格差」をそのまま許容するということですから、最高裁の判例が要請した「違憲状態」の改善を全く無視するということです。

現行法上の「一票の格差」が生じている小選挙区制や比例代表制の選挙区も、「人口のみ」ではなく「人口を基本とし」ながらも「行政区画、地勢等を総合的に勘案して」定めた結果なのですから、それを憲法に明記するということは、現状の「違憲状態」にある制度を憲法で認めるということに他ならないのです。

「一票の格差」を生じさせている現行法上の選挙区の区割りは最高裁が指摘しているように「違法状態」にあるわけですから、求められているのは「一人一票」により近づける法制度を整備してその「違憲状態」を改善することであるはずです。

にもかかわらず自民党は、それを改善するどころか「違憲状態」にある選挙区の区割りをそのままの状態で放置しても憲法で「合憲」と言えるようにするために、わざわざ改正案第47条2項を追加しようとしているのですから、これは憲法改正を利用した「違憲状態」の正当化とも言えるでしょう。

最高裁が「違憲状態」を指摘して「一票の格差」を是正するよう判例で求め続けてきた事実を全く無視して、その「違憲状態」を恒常化させるこの自民党憲法改正草案第47条2項は、これまでの司法判断を蔑ろにするものであって、「一人一票の原則」を実現不可能にする大変危険な条文です。

「一人一票」の原則は国民主権の基本原理から導かれる選挙の概念上当然のものなのであって、その「一人一票」の原則を損なう定数不均衡の状態は原理的に許容されないものなのですから、その「違憲状態」を憲法上で名目共に「合憲」としてしまう自民党憲法改正草案第47条2項の危険性にすべての国民が気付く必要があります。