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自民党憲法改正案の問題点:第47条2項|「一票の格差」を合憲に

(2)Q&Aは審議会設置法の核心部分となる「2以上とならないように」を取り除いて改正案第47条2項を正当化している点で大きな問題がある

また、自民党憲法改正草案第47条2項が、審議会設置法第3条から「その最も多いものを少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすること」との部分をあえて取り除いているにもかかわらず、審議会設置法第3条を持ち出して改正案第47条2項を正当化している点も問題です。

先ほど引用したように、自民党は改正案第47条2項を新設した点について、Q&Aで衆議院議員選挙区画定審議会設置法の第3条を参考にしたと説明していますが、同審議会設置法第3条は単に「行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して」おけばよいと述べているわけではありません。

審議会設置法第3条は「人口のうち、その最も多いものを少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすること」と述べており、選挙区の人口格差が「2.0倍」以上に広がらないことを要請しているからです。

先ほど説明したように、学説では合理的な理由もなく選挙区間で「2.0倍」以上格差が広がる場合は違憲とする解釈が広く支持されている事情がありますので(※芦部信喜著、高橋和之補訂「憲法」138~145頁)、そうした通説的な見解を踏まえれば、「行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮」するだけでは「2.0倍」を超えることになって通説的見解からの「違憲状態」の指摘を回避することができません。

そのため審議会設置法第3条は、選挙区の人口格差が「2.0倍」以上に広がらないようにするために、あえて「2以上とならないようにすること」と規定しているのです。

そうであれば、審議会設置法第3条の核心部分は単に選挙区を「行政区画、地勢、交通等の事情を総合的の考慮」して決めるという点ではなく「2以上とならないようにすること」に配慮したうえで「行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮」して人口格差が2.0倍以上に広がらないようにするところにあると言えますが、自民党が新設した改正案第47条2項では「その最も多いものを少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすること」との部分が取り除かれてしまっていますので、自民党改正案は単に「行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮」すれば合憲だと述べただけの文章になってしまっています。

しかしそれでは、改正案第47条2項は、審議会設置法第3条が「2以上とならないようにすること」を要請して人口格差が「2.0倍」以上に広がらないことを求めた部分を無視することになりますから、そもそも自民党のQ&Aが審議会設置法第3条を持ち出して改正案第47条2項を正当化していること自体、問題があると言えます。

つまり、自民党のQ&Aは、審議会設置法第3条が「選挙区の人口格差が2.0倍以上に広がらないこと」を要請しているにもかかわらず、それをあえて隠して審議会設置法第3条があたかも「行政区画、地勢、交通等の事情を総合的の考慮」すればよいと言っているかのように捻じ曲げて引用し、改正案第47条2の条文を正当化しているので、国民を騙しているのも同じなのです。

このように、読み手を錯誤に陥らせなければ正当化することができないのが改正案第47条2項なのですから、その危険性は十分に認識しておく必要があるでしょう。

(3)「一人一票」の原則は、「単に人口のみによって決められるもの」であるべきもの

以上で説明したように、自民党憲法改正草案第47条2項は「各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない」と規定していますが、これは最高裁が「違憲状態」と指摘してその改善を求めてきた「一票の格差」を生じさせている現行法制における選挙区の人口格差を憲法で「合憲」と位置付けるためのものであって、「違憲状態」を改善し「一人一票」の原則に近づけるためのものではなく、「違憲状態」となっている現状の選挙区の人口格差をそのまま放置して合法とするためだけの規定です。

また、自民党はQ&Aで審議会設置法第3条を持ち出してその規定を正当化していますが、審議会設置法第3条はあくまでも人口格差が「2.0倍」以上に広がらないことを要請しているのであって、その要請を無視し「行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮」することだけを条文化した改正案第47条2項は、審議会設置法第3条に沿うものではなく、同条を捻じ曲げて引用し国民を錯誤に陥らせている点で大変問題のある説明といえるでしょう。

ところで、こうした問題を内在している自民党憲法改正草案第47条2項ですが、この自民党憲法改正草案第47条2項の問題点を考える際には、そもそも選挙区を区割りするうえで「人口以外」の要素を考慮することが果たして妥当なのかという点も考えなければなりません。

なぜなら、先ほど説明したように「一人一票」の原則は国民主権の基本原理から導かれる選挙の概念上当然のものなのであって、そもそも選挙区の人口格差が「1.0倍」を超える状態は原理的に許容されないものと言えるからです。

自民党憲法改正草案第47条2項も先ほど挙げた審議会設置法第3条も、選挙区の区割りにおいて「人口を基本」としながらも「行政区画」や「地勢等」を「総合的に勘案」して定めることを許容していますが、「一人一票」の原則が選挙に内在する概念上当然のものであれば、そもそも「人口以外」の要素を選挙区の選定で考慮すること自体が矛盾しています。

選挙区を定める際に「人口以外」の要素を加えて総合的に考慮すれば、「1.0倍」を超えてしまうことを最初から許容することになるからです。

「一人一票」の原則を実現させるなら、人口格差は限りなく「1.0倍」に近づけなければなりませんが、そうであれば各選挙区は「人口だけ」を考慮するしかありませんので、原理的に考えれば「人口のみ」を考慮して選挙区を決定すれば済む話なのです。

実際、先ほど挙げたようにアメリカでは最大区と最小区の人口差は小選挙区であっても「1人」を実現できているのですから、「人口のみ」を考慮して選挙区を決めるなら日本でも人口格差を「1.0倍」にすることはできるはずでしょう。

先ほど挙げたように、最高裁や憲法学の通説は人口格差が「2.0倍」を超えるケースを違憲と考え「2.0倍」未満であれば合憲と判断する傾向があるようですが、そもそもそうして「1.0倍」を超える格差を許容していること自体が、原理的に考えればおかしなことなのです。

選挙区で「1.0倍」を超える人口格差を許容するということは、民主主義の正当性の根拠となる多数決原理を歪めて「少数決」を許容するということですから、民主主義を実現するというのなら、アメリカのように徹底的に選挙区の格差を排除して「1人」までその格差を縮め「1.0倍」にすることを目指すべきなのではないでしょうか。

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現行法制の「違憲状態」を違憲状態のまま合憲として位置付けるためだけの自民党憲法改正草案第47条2項は有害無益

このように、自民党憲法改正草案第47条2項は「各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない」との条文を新設していますが、この条文は「一票の格差」を生じさせている現行法制の選挙区における「違憲状態」を改善させるどころかその「違憲状態」をそのまま放置して「合憲」と説明するためだけの条文に過ぎませんから、改正したところで何の役にも立たない条文です。

また、そうした条文が憲法に規定されれば、国はその改正案第47条2項を根拠に「行政区画や地勢等を総合的に勘案した結果が現行法制の選挙区だから違憲ではない」と説明することができるようになりますので、改正後は国民から国(立法府)に対してこれ以上の「一票の格差」の是正を求めることが出来なくなってしまいます。

つまり、自民党憲法改正草案第47条2項が国民投票を通過すれば、「一票の格差」が生じている「違憲状態」を現状のままで放置することが憲法で許されることになる結果として「一人一票」の原則を実現させることは永久に不可能となってしまうので、第47条に第2項の条文を付け加えること自体が国民にとっては害悪しかなく有害無益なだけなのです。

そしてそもそも、先ほど説明したように「一人一票」の原則は国民主権の基本原理から導かれる選挙の概念上当然なものなのですから、選挙区の人口格差が「1.0倍」を超える状態自体が民主主義の観点から見れば異常な状態なのであって原理的に許容されないはずです。

そうした民主主義の具現化を不能にしてしまう憲法規定を新設しなければならない理由がどこにあるのか、国民は冷静に判断することが必要です。