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「#ケチって火炎瓶」トレンド操作疑惑に見る憲法改正案の危うさ

この記事を書いているのは2018年の9月5日ですが、つい先日、「#ケチって火焔瓶」「#○○とヤクザと火炎瓶」というハッシュタグをつけたツイートがツイッターユーザの間で大流行した件については記憶している人も多いと思います。

この「#ケチって火焔瓶」「#○○とヤクザと火炎瓶」というワードが何を指すのかご存じない方もいらっしゃると思いますので念のため説明しておくと、その発端は1999年に山口県で発生した某国会議員(以下「A議員」といいます)の事務所(以下「A事務所」といいます)の絡む火炎瓶投擲事件にまで遡ります。

A事務所に絡む火炎瓶投擲事件とは、当時行われていた下関市長選にからみ、A事務所が支援していた候補者を当選させるために暴力団関係者に依頼して対立候補を誹謗中傷するビラを撒かせて選挙妨害を行ったものの、当初その報酬として500万円支払う約束をしていたにもかかわらずA事務所側が報酬を”ケチって”300万円しか支払わなかったことから暴力団関係者が立腹し、その報復にA事務所などに火炎瓶を複数回投擲し逮捕された事件のことを言います。

この事件の判決文は→福岡地裁平成19年3月9日判決|裁判所判例検索(※判決文では「A議員」のことは「G議員」と表示されています)

この火炎瓶投擲事件自体は当時新聞などでも報道されていたものの、A事務所の暴力団関係者に対する選挙妨害の依頼に関しては様々な経緯から報道がなされていなされていませんでした。ところが今年に入って服役していた主犯格の男性が刑期を終えて出所し、ジャーナリストの山岡俊介氏らにA事務所から選挙妨害の依頼があったことを示す複数の念書等を提示したことで再びその疑惑が注目を集めることになります。

6月9日にアクセスジャーナルがそのサイトでA事務所の暴力団関係者に対する選挙妨害疑惑を報じたのを皮切りに、7月17日にも参議院の委員会で山本太郎議員がその選挙妨害依頼疑惑に触れるなど国会でも話題にのぼり、さらに8月7日にはこの疑惑を取材していたジャーナリストの山岡俊介氏が新宿駅で不可解な転落事故を起こし重傷を負ってしまうなどしたことから徐々にその疑惑の存在が世間に知られるようになって行きました。

そうした中でツイッターユーザの間でもその疑惑を追及する声が徐々に大きくなっていき、前述した「#ケチって火焔瓶」「#○○とヤクザと火炎瓶」のハッシュタグをつけたツイートのお祭り騒ぎになったわけです。

実際のツイートでは「#○○とヤクザと火炎瓶」の「○○」にはA議員の苗字二文字が入ります。

ところで、このA事務所の暴力団関係者への選挙妨害依頼疑惑の真相追及については山岡氏アクセスジャーナルさんにお任せすることとして、本サイト(憲法道程)は憲法のサイトですから、憲法に関連して気になる点がありましたので、若干述べさせてもらいたいと思います。

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「トレンド操作疑惑」という問題

この件で憲法の観点から何が気になったかというと、ツイッターの「トレンド操作疑惑」という問題です。

先ほど述べたように、このA事務所の選挙妨害に関しては「#ケチって火炎瓶」「#○○とヤクザと火炎瓶」というハッシュタグをつけたツイートが大流行したわけですが、最初に流行したのは「#ケチって火炎瓶」の方でした。

「#ケチって火炎瓶」のハッシュタグがいつごろから使われたのかは正確には把握していませんが、ツイッターのトレンドに上がっているのを私が見つけたのが8月27日の早朝でしたので、おそらく8月26日の夜にはすでに「#ケチって火炎瓶」のハッシュタグは使用されていたのではないかと思います。

まあ、それはいいのですが、問題はその「#ケチって火炎瓶」がトレンドに上がった後の経緯です。「#ケチって火炎瓶」は8月27日の昼ごろまではトレンドに上がっていたと記憶していますが、その夜頃にはなぜかトレンドからは消えていました。

「#ケチって火炎瓶」で検索を掛けると結構なツイートがなされていたので「#ケチって火炎瓶」のハッシュタグが多くのツイートで使われていたことは間違いないのですが、なぜかトレンドに上がっていなかったのです。

そうしているうちにトレンドからの削除に気付いたユーザーが「#○○とヤクザと火炎瓶」という身も蓋もないハッシュタグを発明し、今度はその「#○○とヤクザと火炎瓶」を付けたツイートが8月28日から29日にかけて大流行するようになります。

ところがその「#○○とヤクザと火焔瓶」も8月29日の未明にはトレンドから削除されてしまい、今度は「#○○とヤクザと火焔瓶2」という革新的なハッシュタグが翌30日にかけてトレンド上位に君臨しますが、「#○○とヤクザと火炎瓶2」も30日にはトレンドから姿を消してしまいます。

もちろんツイッターユーザーは暗黙の了解で「#○○とヤクザと火炎瓶3」のハッシュタグを付けて9月1日以降もお祭り騒ぎを続けますが、なぜか「#○○とヤクザと火炎瓶3」はトレンドに一度も上がらないまま「#ケチって火炎瓶」から始まる一連の炎上騒ぎは”外見上は”あえなく沈静化してしまいました。

たたし、炎上騒ぎが沈静化したのはあくまでも”外見上”そう見えるだけであって「#ケチって火焔瓶」「#○○とヤクザと火炎瓶」のハッシュタグをつけたツイートは今でも数多く投稿されています。実質上は今の時点(2018年9月5日)でも「#ケチって火焔瓶」のお祭り騒ぎは継続していますから「#ケチって火焔瓶」が今の時点でトレンドに上がってないのは不自然ではあります。

もっとも、この一連のトレンドからの削除は、Twitter社が「#ケチって火炎瓶」や「#○○とヤクザと火炎瓶」というハッシュタグをつけたツイートが乱発されたことからスパム扱いして自主的にトレンドから削除したのかもしれませんし、「#ケチって火炎瓶」「#○○とヤクザと火炎瓶」というツイートが私が思っているほど拡散されていなかったからトレンドから自然消滅しただけという可能性もゼロではありません。

ですから、これらのトレンドからの削除を短絡的に「トレンド操作」と結びつけることはできませんので、この「#ケチって火炎瓶」「#○○とヤクザと火炎瓶」のトレンドからの消滅自体は別に構わないのです。

ツイッターユーザーの中には「Twitter社がAを忖度して削除したんだ」とか「政府がTwitter社に圧力をかけて消させたんだ」とか「A陣営が慌ててTwitter社に削除依頼を掛けたんだ」などと主張する方々もいるようですが、私は全く、これっぽっちも、そのようなことがあったなんて微塵も考えていません。本当に心の底からそう思っています。本当です…。嘘じゃないもん…。

そもそも、あの清廉潔白なAさんが言論の自由を保障する憲法に違反してまでそんな卑劣な情報操作などするわけがないじゃないですか…。それに「政府のTwitter社への圧力」や「Twitter社の忖度」があったかなかったかなどという点は確かめようがありませんから、どっちだっていいのです。

私が今回のトレンドの件で指摘したいのは、そんなことではありません。

自民党が今公開している憲法改正案が今後行われるであろう国民投票で多数を得た場合、そのようなトレンド操作は政権の思うがままに合法的にいくらでもできてしまう、という危険性を指摘したいのです。

現在の日本国憲法で「トレンド操作」は認められない

「#ケチって火焔瓶」「#○○とヤクザと火炎瓶」と2つ並べるのは面倒なので、これ以降は単に「#ケチって火炎瓶」とだけ記載します。

ところで、先ほども述べたように今回の「#ケチって火焔瓶」というワードがツイッター上で大流行した件では「#ケチって火炎瓶」という文章が何らかの理由でトレンドから削除され「トレンド操作」が行われた疑惑があるのですが、憲法的見地から考えてみると、今回の件で「トレンド操作」を行うことは認められません。

なぜなら、仮に今回のような「#ケチって火炎瓶」のハッシュタグが拡散される状況を政府が快く思わなかったとしても、政府がそのハッシュタグをつけたツイートをトレンドから削除するようTwitter社に求めることは、憲法で禁止されているからです。

(1)「#ケチって火炎瓶」は言論の自由、表現の自由として保障される

「表現の自由」や「言論の自由」という言葉は皆さんも聞いたことがあると思いますが、これらは基本的人権として憲法21条1項で以下のように保障されています。

【日本国憲法21条】

第1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
第2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

そして、この憲法で保障される基本的人権は「侵すことのできない永久の権利」として国民に与えられているものですから、この「言論の自由」「表現の自由」に含まれる限り、国家権力によって妨げられることは禁止されることになります。

【日本国憲法11条】

国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

つまり、「言論」その他一切の「表現の自由」は憲法で「人権」として保障されていますので、国家権力がこの「言論の自由」「表現の自由」を制限することは認められないのです。

この点、ツイッターユーザーが「#ケチって火焔瓶」のハッシュタグを付けてツイートする文章も「言論」であり「表現」の一部ですから、当然そのツイートもこの憲法21条で保障される「言論の自由」「表現の自由」に含まれることになります。

「#ケチって火焔瓶」をつけたツイートが「言論の自由」「表現の自由」に含まれるのであれば当然、国家権力である政府がこれを検閲したり、Twitter社に削除やトレンド操作を求めることはできません。それをやってしまうと、政府を構成する議員が憲法遵守義務に違反することになるからです。

【日本国憲法99条】

天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

ですから、仮に政府やA議員が「”#ケチって火炎瓶”のタグを付けてツイートするなんてけしからん!」と考えたとしても、今回の件で政府やA議員らがTwitter社にトレンド操作を行うよう働きかけることは、「憲法上はできない」と言えるのです。

(2)「#ケチって火炎瓶」は”公共の福祉”に反しない

このように「#ケチって火炎瓶」というワードは「言論の自由」「表現の自由」の一部と考えられますので、仮に政府やA議員がそれを不快に思っていたとしても、そのツイートを削除したりトレンド操作を要請することは憲法上認められないといえます。

もっとも、このように「#ケチって火焔瓶」が「言論の自由」「表現の自由」として保障されるとしても、例外的にその制限が許される場合があります。その表現行為が「公共の福祉」に反するような場合です。

憲法の12条では憲法が保障する権利は「濫用してはならない」こと、また常に「公共の福祉」のために用いることを求めていますから、「言論の自由」「表現の自由」に含まれる表現行為であっても「公共の福祉」を逸脱して濫用することは認められません。

【日本国憲法12条】

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

ですから、「#ケチって火炎瓶」のハッシュタグを伴うツイートが「言論の自由」「表現の自由」に含まれるとはいっても、そのツイートが「公共の福祉」を逸脱したものと認められる場合には、国家権力による制限も認められるということになります。

つまり、「#ケチって火炎瓶」のツイートが「公共の福祉」に反するものである場合には、その「#ケチって火焔瓶」を付けたツイートを政府が削除したりトレンド操作することも憲法上認められることになるわけです。

この点、その「公共の福祉」という言葉が具体的に何を意味するのかという点が問題になりますが、弁護士の伊藤真さんの言葉を借りて簡単に説明すると「自分勝手はダメですよ、自分のことだけ考えてはいけませんよ(伊藤真「憲法問題 なぜいま改憲なのか」PHP新書86~87頁より引用)」という意味になります。

ですから「#ケチって火焔瓶」のハッシュタグを含むツイートが「自分勝手で自分のことだけを考えた」ような内容である場合には、そのツイートは「公共の福祉」に反するものとして国家権力の制限を受けることもある(国家権力が制限しても憲法違反にはならない)ということになるのです。

たとえば、わいせつな意図をもって陰部を撮影した画像などがツイートされた場合、「局部の画像」であっても表現の自由に含まれますので国家権力がその削除を求めることは表現の自由を侵害する行為として憲法違反となるのが原則です。

しかし、実際には警察(国家権力)がその「陰部の画像」ツイートの削除要請をした場合はTwitter社は削除に応じなければなりません。つまり、この「陰部の画像」の場合には国家権力による「表現の自由」の制限が認められることになるのです。

ではなぜ「陰部の画像」という表現の自由の制限が認められるかというと、その行為が「自己の性的欲求を満たすだけ」のものに過ぎない「不特定多数の人の性的羞恥心を害する」行為であり、そこに公共性は存在せず「公共の福祉」の範囲内とは認められない(公共の福祉に反する)からです。

「局部の画像をツイートする」行為が「公共の福祉」の範囲外の行為となれば、憲法12条によって国家権力の制限も認められることになりますから、そのようなケースでは国家権力による表現の自由の制限は憲法違反とならないわけです。

なお、同じ「陰部の画像」であってもwikipediaや医療関係者などのウェブページで削除の対象とならないのは、それが「わいせつ目的」ではなく「学術研究の目的」をもってアップロードされているからです。

学術的・研究目的の「陰部の画像」であれば同じ「陰部の画像」であっても「公共の福祉」のためのものとして「表現の自由」が保障されます。

「公共の福祉」の範囲内の画像であれば国家権力が憲法12条を根拠に制限(削除)することは認められませんから、wikipediaや医療関係者のサイトでは「陰部の画像」がアップロードされ続けているわけです。

もっとも、このように「公共の福祉」の制限を考えた場合であっても、政府やA議員など国家権力が「#ケチって火焔瓶」のハッシュタグを付けたツイートを制限することはできません。

なぜなら、「#ケチって火焔瓶」のハッシュタグは「公共の福祉」を逸脱するものではないからです。

もちろん、「#ケチって火焔瓶」のタグを含むツイートは、この冒頭で説明した火炎瓶投擲事件と関連付けられてツイートされますので、その拡散によって政権やA議員という国家権力にはそれ相応のダメージとなるでしょう。

しかし、それは政府や国会議員という「公益」に対するダメージであっても「公共の福祉」を侵害するものではありません。

また、「#ケチって火炎瓶」のハッシュタグを含むツイートは、公職選挙法違反の疑いのある「現職議員による選挙妨害疑惑」であったり、暴力団関係者に選挙妨害を依頼した「国会議員と反社会的勢力との交際疑惑」の真偽を問うための公共性のある言論といえますから、それは「自分勝手」でも「自分のことだけ」を考えたツイートでもなく、公共の利益を目的としたツイートと言えるでしょう。

そうであれば、「#ケチって火炎瓶」のハッシュタグも「公共の福祉」の範囲内のものとして、表現の自由という人権の保障は受けられるべきと言えます。

ですから、「#ケチって火焔瓶」のハッシュタグをつけたツイートは、「公共の福祉」の制限を考えた場合であっても、国家権力(政府・A議員)が削除要請したりトレンド操作できる対象にはならない、と言えるのです。

自民党の憲法改正案では「トレンド操作」が可能になる

このように、「#ケチって火焔瓶」のハッシュタグはそれ自体が「公共の福祉」の制限を超えるものではありませんから、現行憲法の規定が改正されない限り、国家権力(A議員・政府・与党)の要請によってトレンドから削除されたり、トレンドの操作によってトレンドランキングから故意に除かれることは、”国家権力が憲法違反を犯さない限り”あり得ないと言えます。

では、もし仮に自民党の憲法改正案が国民投票を通過してしまった場合はどうなるでしょうか?

自民党を中心とする与党は憲法改正の必要性を熱心に主張していますから、遅かれ早かれ憲法改正の発議は国会においてなされるものと予想されます。

そうなると、そこで発案される改正案は当然、与党である自民党が作成した憲法草案がたたき台に議論されることになりますので、自民党の憲法改正案によってどのように「言論の自由」「表現の自由」が影響を受けるのか、という点を理解しておくことは非常に重要です。

この点、自民党の憲法改正案は自民党のサイトで公開されていますので、その憲法改正案の条文を確認してみましょう。

自民党の憲法改正案では「表現の自由」を規定した現行憲法の21条は以下のように変えられています。

【自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日(決定))第21条】

第1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
第2項 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

※出典:日本国憲法改正草案(平成24年4月27日(決定))|自由民主党憲法改正推進本部(https://storage.jimin.jp/pdf/news/policy/130250_1.pdf)7頁を基に作成。

一見すると、先ほど挙げた現行憲法の21条と大差ないように見えますが、現行憲法で表現の自由が単に「…保障する」とされていたものが、自民党改正案では「公益及び公の秩序」を害する目的で行われる表現行為が制限されるというように変更されています。

では、現行憲法の12条における「公共の福祉」はどのようになっているかというと、自民党の憲法改正案の12条では以下のように変更されています。

【自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日(決定))第12条】

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。

※出典:日本国憲法改正草案(平成24年4月27日(決定))|自由民主党憲法改正推進本部(https://storage.jimin.jp/pdf/news/policy/130250_1.pdf)5頁を基に作成。

こちらも一見すると先ほど挙げた現行憲法の12条と大差ないように見えますが、現行憲法で人権の行使が単に「公共の福祉」に反する場合にだけ制限されていたのに対し、自民党の憲法改正案では「公益及び公の秩序」に反する行使まで制限されるというように変えられてしまっています。

つまり、現行憲法では「言論の自由」「表現の自由」は「公共の福祉」に反しない場合にだけ国家権力の制限を受けることがあるだけであるのに対して、自民党の憲法改正案では「公益及び公の秩序」に反する場合であっても、その表現行為が国家権力に制限されてしまうということになるわけです。

この点、「公共の福祉」と「公益及び公の秩序」はその字面だけを見るとさほど変わりませんが、その意味するところは大きく異なります。

なぜなら、先ほども挙げたように「公共の福祉」とは「自分勝手はダメですよ、自分のことだけ考えてはいけませんよ(伊藤真「憲法問題 なぜいま改憲なのか」PHP新書86~87頁より引用)」という意味に過ぎませんが、「公益及び公の秩序」における「公益」には「政府」や「政党」や「国会議員」や「総理大臣」も含まれることになるからです。

つまり、自民党の改正案では「政府・政党・議員・首相の不利益になる行為はダメですよ、国の秩序を乱す表現はいけませんよ」という意味になってしまいますから、「政府」「政党」「議員」「首相」の利益を損なう言論や表現は、たとえそれが「言論の自由」「表現の自由」という基本的人権に含まれるものであったとしても、この条文によって国家権力の制限を受けることになるのです。

自民党の憲法改正案では、「公益」すなわち「政府」「政党」「議員」「首相」の利益に反する言論・表現は「公益及び公の秩序」に反するものとして人権保障の枠外に置かれるわけですから、仮にこの改正案が通ってしまった場合には、「政府」や「政党」や「国会議員」や「総理大臣」という「公益」の利益を害する言論や表現がなされた場合、国家権力がそれを制限することも認められることになるのは間違いありません。

そうなると当然、今回の件のような「#ケチって火炎瓶」のハッシュタグをつけたツイートも政府やA議員という「公益」を損なう言論・表現として削除の対象となるでしょうから、国家権力が「#ケチって火焔瓶」のハッシュタグをつけたツイートをトレンドから削除するようTwitter社に求めることが憲法違反にはならないだけでなく、Twitter社がその要請に反してトレンド操作を拒否することもできなくなってしまいます。もちろん、国家権力はそのツイ主を逮捕することだってできるでしょう。

つまり、もし仮に今後憲法改正が現実化してしまった場合には、たとえ「#ケチって火焔瓶」のような炎上騒ぎ起こったとしても、政府は「公益及び公の秩序」に反するという理由でTwitter社にトレンド操作を強制させることが憲法上可能になるわけです。

「トレンド操作」ができる社会で本当に幸せなのだろうか?

以上、今回ツイッター上で発生した「”#ケチって火焔瓶”お祭り騒ぎ事件」を題材にして、現行憲法における「公共の福祉」と自民党の憲法改正案における「公益及び公の秩序」の違いを解説してみましたが、皆さんどのように感じたでしょうか?

もちろん、立憲民主主義国家においては、国家権力に制限を加える憲法は国民自身の選択で決定されるべきものですから、国民が「公益及び公の秩序」に反する人権の制限を許容するというのであれば、自民党の憲法改正に賛成しても構わないのは当然です。

ですが、私は個人的な意見として基本的人権が「公益及び公の秩序」の制限を受けるなど”まっぴらごめん”と考えています。

「公共の福祉」のために汗水たらして働くのは望むところですが、国家権力の顔色を伺いながら生活するなど身の毛もよだつほど嫌悪感を覚えるからです。

お隣の中国では、「公益及び公の秩序」の制限を受けない言論・表現の自由をつかむために大勢の人が戦車に轢かれるのを覚悟で天安門広場に集い、実際に多くの人が戦車や銃弾に倒れて命を落としましたが、未だに十分な言論・表現の自由が保障されないまま窮屈な毎日を過ごしています。

なのになぜ、この国の人々は自ら進んで「公益及び公の秩序」の制限を受け入れようとしているのか、私には皆目理解できません。

おそらく皆さんは、「#ケチって火炎瓶」や「#○○とヤクザと火炎瓶」などというハイセンスでスタイリッシュなユーモアセンス溢れるハッシュタグを自由にツイートできるこの社会が、如何に素晴らしく、如何に自由で、如何に尊いものであるのかということに、全く気付いていないのでしょう。

「トレンド操作」が自由に許されてしまう社会が本当に幸せな社会といえるのでしょうか?

我々は、人権と自由の意味を一人一人が真剣に考えなければならないほど暗い時代にいつの間にか足を踏み入れてしまっていたことに、もっと早く気付くべきであったのかもしれません。