憲法改正に執拗に固執し続ける自民党が公開している憲法改正草案の問題点を一条ずつチェックしていくこのシリーズ。
今回は、「抑留及び拘禁に関する手続の保障」について規定した、自民党憲法改正草案第34条の問題点を考えてみることにいたしましょう。
現行憲法の条文を1項と2項に分けた自民党憲法改正草案第34条
自民党憲法改正草案第34条は「抑留及び拘禁に関する手続の保障」を規定した条文ですが、この条文は同様のものが現行憲法にも規定されていますので、現行憲法第34条の規定が自民党改正案でもそのまま引き継がれた形になっています。
もっとも、自民党改正案では1つの条文として規定されている現行憲法の第34条を第1項と第2項に分割したうえで文言に若干の変更を加えているので注意が必要です。
では、自民党憲法改正草案第34条は具体的にどのような条文になっているのか。現行憲法の第34条と比較してその規定を確認してみましょう。
【日本国憲法第34条】
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
【自民党憲法改正草案第34条】
第1項 何人も、正当な理由がなく、若しくは理由を直ちに告げられることなく、又は直ちに弁護人に依頼する権利を与えられることなく、抑留され、又は拘禁されない。
※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成
第2項 拘禁された者は、拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。
このように、自民党憲法改正草案第34条は現行憲法の第34条を第1項と第2項に分割した部分と、現行憲法の文末が「示されなければならない」とされている部分を第2項の文末で「示すことを求める権利を有する」に変えた部分が異なります。
では、こうした文章の分割や文言の変更は具体的にどのような問題を生じさせるのでしょうか。検討してみましょう。
憲法第34条が保障した「抑留」と「拘禁」に関する手続とは何か
まず、自民党憲法改正草案第34条の問題点を考える前提として、そもそも現行憲法の第34条が具体的に何を保障しているのかという点を理解しなければなりませんので、その点を簡単に確認してみましょう。
ア)第34条は「人身の自由」を手続的に保障するための規定
もっとも、結論から言えば、現行憲法の第34条は国民の「人身の自由」を守るための規定です。
中世の封建的な統治体制では、専制主義的な方向に傾斜することで国家権力が法に基づくことなく逮捕や監禁、拷問したり、また恣意的に刑罰権を行使することによって市民の「人身の自由」が不当に侵されることが続きました。
しかし、市民の「人身の自由(身体の自由)」が保障されない社会では、人間本来の目的である「自由」を具現化させることができません。
そうした反省から近代国家では、国家権力によるそうした不法・不当な拘束に歯止めを掛けることが求められ、「人身の自由」を基本的人権として保障することが求められました。
そのため戦後に制定された日本国憲法においても、「逮捕」に関しては第33条に、「監禁」については第34条に、「拷問」に関しては第36条にそれぞれそれを制限する規定を設けることにして、国民の「人身の自由」を保障することにしたのです。
これが憲法第34条の意味となります。
イ)「抑留」「拘禁」とは
この点、第34条が制限を加えた「抑留」と「拘禁」の意味を確認しますが、「抑留」は身体拘束のうち一時的なものを、「拘禁」はより継続的な身体拘束を指します。
具体的に言うなら、刑事訴訟法における『逮捕』や『留置』が「抑留」にあたり、『勾留』や『鑑定留置』が「拘禁」にあたります(※芦部信喜著、高橋和之補訂「憲法」239頁)。
ウ)憲法第34条は「抑留」と「拘禁」による不当な身体拘束を手続的に防止するための規定
こうした「抑留」や「拘禁」は、公権力が国民の身体を拘束することになりますので、それを無制約に認めると国民の自由が害され、人間本来の目的である「自由」が具現化できなくなり民主主義も破綻してしまいます。
そのため第34条は、そうした「抑留」や「拘禁」を公権力が不当に利用できないように、手続の側面から制限を加えることにしました。
具体的には、公権力が国民を「抑留」または「拘禁」する際には「理由を直ちに告げること」また「直ちに弁護人に依頼する権利を与えられること」を要件として課すことで不当な身体拘束を防止するとともに(第34条前段)、「拘禁」についてはその拘束される際に告げられる「理由」が「正当な」ものであることを要件としたうえで、その「正当な理由」を本人及び弁護人の出席する公開の法廷で「示されなければならない」として、公権力にその「正当な理由」の明示を義務付けることで不当な理由による国民の身体拘束を防いでいます(第34条後段)。
この点、第34条後段が、拘束される本人に告げられる理由について「正当な」ものであることを求めたのが「拘禁」だけであることから、「抑留」において拘束される本人に告げられる理由は「正当な」ものでなくてもよいのかという点に疑義が生じます。
しかし、「不当な理由」による身体拘束を認めてしまうと「抑留」の手続保障を規定した第34条が空文化してしまいますので、「拘禁」だけでなく「抑留」に関してもその告げられる「理由」は「正当な」ものであることが必要とされるのは当然と考えられています(※参考→https://www.jlaf.jp/old/jlaf_file/060516tikujyou.pdf 82頁参照)。
ですから、現行憲法の第34条では「拘禁」についてしか公権力に「正当な理由」の告知義務を課していませんが、「抑留」に際して告知される「理由」についても「正当な」ものであることは当然に要請されていて、「抑留」に際しても公権力には「正当な理由」を告知する義務は当然に課せられていることになります。
このように、現行憲法の第34条は国民の身体を拘束する「抑留」と「拘禁」に際して「正当な理由を直ちに告げられること」「直ちに弁護人に依頼する権利を与えられること」「本人及びその弁護人に公開の法廷で正当な理由を示さなければならないこと」の3つの要件を手続的に公権力に課すことで、国民が公権力によって不当・不法に拘束されることを防ぎ、国民の「身体の自由」を保障することを具現化させているわけです。
- ①正当な理由を直ちに告げること
- ②直ちに弁護人に依頼する権利を与えること
- ③本人及びその弁護人に公開の法廷で正当な理由を示すこと
自民党憲法改正草案第34条が含む3つの問題点
以上のように、公権力が国民を「抑留」または「拘禁」する際に、公権力に上記①②③の3つの要件を課すことで、手続的な側面から国民が不当・不法に身体拘束されないように歯止めを掛けたのが現行憲法の第34条です。
ところで、このページの冒頭でも述べたように、自民党憲法改正草案はこの現行憲法第34条の規定を第1項と第2項に分割したうえで、第2項に置いた現行憲法第34条後段部分の文末を「示されなければならない」から「示すことを求める権利を有する」に変えています。
では、こうした変更は具体的にどのような問題を生じさせるのでしょうか。
問題はいくつか考えられると思われますが、ここでは次の3つの問題点を指摘しておくことにしましょう。