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自民党憲法改正案の問題点:第34条|抑留と拘禁の要件が緩む

(1)「且つ」ではなく「若しくは」と「又は」で文章が繋がれたことで「抑留」と「拘禁」に掛けられた手続的要件が緩和される危険性

自民党憲法改正草案第34条の問題点としてまず挙げられるのが、現行憲法第34条の条文の文面が「若しくは」と「又は」で繋がれていることで、「抑留」と「拘禁」に課せられた手続的制限の要件が曖昧にされている点です。

前述したように、現行憲法の第34条は、公権力が国民を「抑留」または「拘禁」する場合において、前述の「ウ」で説明した①②③の3つの要件を充足することを要請したものですので、公権力が国民を「抑留」または「拘禁」する場合には、前述した①②③の要件を全て満たさなければなりません。

たとえば、国家権力が特定の国民を逮捕(抑留)する際に、逮捕する正当な理由を直ちに告げて①の要件を満たしたとしても、弁護士に依頼することを制限した場合には②の要件を満たさないのでその取扱いは違憲(違法)となるわけです。

またたとえば、国家権力が特定の国民を留置場で勾留(拘禁)する際に公開の法廷で弁護士と本人にその勾留の理由を説明して①と②の要件を満たしたとしても、その理由が正当なものでなかったとすれば、その勾留(拘禁)は③の要件を満たさないので違憲(違法)となるわけです。

しかし、自民党憲法改正草案第34条の文面は、この要件の充足が曖昧な表現で規定されています。

具体的には第1項の条文です。先ほど引用したように、自民党憲法改正草案第34条の第1項は

何人も、正当な理由がなく、若しくは理由を直ちに告げられることなく、又は直ちに弁護人に依頼する権利を与えられることなく、抑留され、又は拘禁されない。

と規定されていますが、この文章では「正当な理由」と「その理由を直ちに告げること」が『若しくは』で繋がれていますので、文理的には「正当な理由」があれば「その理由を直ちに告げ」なくても良いと読み取ることもできますし、「理由を直ちに告げ」さえすれば必ずしもその理由が「正当な」ものでなくても構わないと読むこともできてしまいます。

また、「正当な理由」と「理由を直ちに告げること」が『又は』によって「直ちに弁護人に依頼する権利を与えること」と繋がれていますから、「正当な理由」があれば必ずしも「直ちに弁護人に依頼する権利を与えられ」なくても良いと読み取ることもできますし、「直ちに弁護人に依頼する権利を与え」ておきさえすれば「正当な理由」がなかったりそれを告げなくても構わないと読み取ることもできてしまうような気がします。

つまり、現行憲法の第34条では、前述の「ウ」に挙げた①②③の3つの要件をすべて満たす場合にしか「抑留」と「拘禁」は許されないとしか文理的に読み取ることが出来なかったのに、自民党憲法改正草案第34条の下では①②③のいずれか一つでもその要件を満たせば「抑留」と「拘禁」が可能であるとの解釈を導くことが文理的にできるようになってしまうのです。

そうなると、仮に自民党憲法改正案第34号が国民投票を通過してしまえば、公権力は前述の「ウ」に挙げた①②③のどれか一つの要件さえ満たしておけば国民を「抑留」しまたは「拘禁」することも可能になりますので、政府(自民党)がそうした解釈を採用する場合には、国民の「人身の自由」は現行憲法のそれよりも格段に保障されなくなってしまうでしょう。

このように、自民党憲法改正草案第34条は、「抑留」と「拘禁」に前述の「ウ」に挙げた①②③の3つ要件を課すことで国家権力による身体拘束を厳しく制限した現行憲法の手続的制限を緩めて、国家権力がより簡単に国民を「抑留」または「拘禁」することができるようにされており、国民に保障された「人身の自由」という基本的人権を大幅に制限する解釈を成立させる点で大きな問題があると言えます。

(2)「示されなければならない」が「示すことを求める権利を有する」に変えられたことで、例外的に「示さない」ことが許容されてしまう危険性

自民党憲法改正草案第34条で指摘できる2つ目の問題点は、第2項の文末が「示すことを求める権利を有する」に変えられたことで、例外的に公権力が裁量によって「正当な理由を示さない」ことが認められる余地が生じてしまう点です。

現行憲法の第34条はその後段で「その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」と規定されていますから、公権力が国民を「拘禁」する際に求められれば、その理由を公開の法廷で示すことは絶対的に必要です。

現行憲法第34条は「示さなければならない」と規定していますので、公権力が裁量で「示さないこと」を認めたり、法律等で例外的に「示さないこと」を許容することは許されないわけです。

しかし自民党憲法改正草案第34条は「示すことを求める権利を有する」とされていて、そこでは単にその「理由の告知を求める権利」を明示しただけに過ぎませんので、例外的な事情があれば公権力が裁量で「その理由を示さない」ことも許されるとの解釈が成り立つ余地が生じています。

この点、具体的にどのような事案で公権力が「その理由を示さない」ことがあり得るかという点に疑問が生じますが、たとえばその「拘禁」の理由を説明することが「公益及び公の秩序」を損なうようなケースが予想されます。

なぜなら、自民党憲法改正案の第12条が、現行憲法で「公共の福祉」の要請がある場合でしか基本的人権の制限を認めていないのを「公益及び公の秩序」の要請がある場合にまで制限することを認めているからです。

自民党憲法改正案の第12条については『自民党憲法改正案の問題点:第12条|人権保障に責務を強要』のページで詳しく解説していますのでここでは繰り返しませんが、改正案第12条は現行憲法で基本的人権が「公共の福祉」の要請がある場合にだけその制約を認めている部分を「公益及び公の秩序」という文章に変更しています。

「公益及び公の秩序」の細かな意味については『自民党憲法改正案の問題点:第12条|人権保障に責務を強要』のページで説明していますのでそちらを参照いただきたいのですが、「公益」は「国(政府)の利益」の言い換えであってその運営を委ねられているのは政権与党の自民党なので「自民党の利益」という意味になり、「公の秩序」は「現在の多数派のつくる秩序」の言い換えであって現在の多数派は自民党ということになりますから「自民党の秩序」と同義となります。

つまり、自民党憲法改正案が国民投票を通過すれば、「自民党の利益」や「自民党の秩序」を損なうような国民の権利行使は、政府(自民党)の裁量で自由に制限することができるようになるわけです。

そうなると、改正案第34条2項が「示すことを求める権利を有する」と規定した部分も、「拘禁」を受ける国民が「人身の自由」を保障されるうえで不可欠な権利ですから、その「正当な理由を示すこと求める権利」についても「公益及び公の秩序」の要請があれば、公権力が裁量で制限することもできるようになってしまいます。

すなわち、自民党憲法改正の第34条が国民帳票を通過すれば、仮に国民が公権力によって「拘禁」される場合に公権力に対して「その理由を示すことを求める権利」を行使して理由の告知を求めたとしても、その理由が「自民党の利益」や「自民党の秩序」を損ねるようなケース(たとえば自民党議員の違法な行為が関係しているなど)では、公権力がその理由を裁量で「示さないこと」も許されることになってしまうのです。

そうなれば、国家権力を掌握した自民党は、その思惑次第で何らその理由を示さなくても国民を自由に「拘禁」することができるようになりますから、もはや国民に「人身の自由」は一切保障されないのと変わりません。

国民は、いつどのような理由で公権力に「拘禁」されるかわからずに生きていかなければなりませんから、自民党の機嫌を損ねないようにひっそりと怯えながら暮らすしかなくなってしまうわけです。

(3)公権力に理由の告知を求める主体が「拘禁された者」に限られてしまう危険性

自民党憲法改正草案第34条で指摘できる問題点の3つ目は、国民が公権力から「拘禁」される際に公権力に対して理由の告知を求める場合において、その告知を求めることのできる主体が自民党憲法改正草案第34条では「拘禁された者」に限られてしまうという点です。

前述したように、現行憲法第34条は後段で

何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

と規定されていますから、公権力は国民を「拘禁」する際にその理由を示すよう求められれば直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷でその理由を示されなければなりません。

もっとも、現行憲法の第34条は、どの範囲の人が公権力に対してその理由を示すことを求めることができるかという点は明確に規定していませんので、具体的にどの範囲の人が「拘禁」の理由の告知を求めることができるかという点は法律に委ねられることになりますが、この点について「拘禁」の一形態である「勾留」の理由開示について規定した刑事訴訟法第82条は被告人の「弁護人」「法定代理人」「保佐人」「配偶者」「直系の親族」「兄弟姉妹」「その他利害関係人」について、その勾留理由の開示請求を認めています。

刑事訴訟法第82条

第1項 勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。
第2項 勾留されている被告人の弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、前項の請求をすることができる。
第3項 前二項の請求は、保釈、勾留の執行停止若しくは勾留の取消があつたとき、又は勾留状の効力が消滅したときは、その効力を失う。

つまり現行憲法第34条の下では、国民が公権力から「拘禁」される場合には、その「拘禁された者」本人だけでなく、その拘禁された者の「弁護人」「法定代理人」「保佐人」「配偶者」「直系の親族」「兄弟姉妹」「その他利害関係人」についても、公権力に対して「その理由を説明せよ」と求めることができるわけです。

しかし自民党憲法改正草案第34条は第2項で

拘禁された者は、拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。

と規定していますから、この条文が「拘禁された者は……求める権利を有する」と規定されている以上、文理的には「拘禁された者」だけが「(理由を)示すことを求める権利を有し」ていて、「拘禁された者」以外は「(理由を)示すことを求める権利は有していない」との解釈も成り立ってしまいます。

つまり自民党憲法改正草案第34条が国民投票を通過すれば、「拘禁された者」だけしか公権力に対してその理由の告知を求めることが出来ないという解釈が成り立ってしまうので、仮に政府(自民党)がそうした解釈を取るようになれば、現行憲法第34条の下では理由の説明を求めることのできた「弁護人」「法定代理人」「保佐人」「配偶者」「直系の親族」「兄弟姉妹」「その他利害関係人」が『拘禁』に際して理由の告知を求めることが出来なくなってしまうのです。

そうなれば、「拘禁された者」に理由の告知を求めることのできない何らかの事情があるケース(たとえば意思能力や判断能力や身体機能等に何らかの支障が生じたような場合)では、「拘禁される者」本人に何らその理由も説明されないまま、公権力がその本人を「拘禁」してしまうこともできるようになってしまうでしょう。

しかしそれは許されるものではありません。そうした人に対して公権力が何の理由も説明せずに「拘禁」できるなら、意思能力や判断能力あるいは身体機能等に支障があるなどで理由の説明を求めることのできない何らかの事情を持つ人は、政府(自民党)が思うがままに「拘禁」して隔離することができるようになるからです。

これは恐ろしい話です。公権力が理由も示さず国民を「拘禁」できるなら、意思表示や判断能力等に支障があるなど事情を持つ国民の「人身の自由」は一切保障されないのと同じだからです。

このように、自民党憲法改正草案第34条の第2項は「拘禁された者は……求める権利を有する」と規定していますが、これは国民が「拘禁」される際に理由の告知を求める主体が「拘禁された者」に限定されてしまうことになり、国民の「人身の自由」を損なう危険が生じてしまう点で大きな問題があると言えるのです。

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自民党憲法改正草案第34条は「抑留」と「拘禁」に関して「人身の自由」を著しく制限できる解釈を許容する余地を生じさせている点で危険

以上で説明したように、自民党憲法改正草案第34条は現行憲法第34条を第1項と第2項に分割して規定していますが、その第1項の文章は現行憲法第34条の文章を整理したようにうかがえる割にはその文面が不正確で、文理的には現行憲法が課した3つの要件(前述した①②③の要件)を充足しなくても「抑留」と「拘禁」が可能だという解釈を成立させてしまう構造にされている点で、「人身の自由」の保障という観点から大きな問題があると言えます。

また、第2項の文末が「示すことを求める権利を有する」に変えられている部分についても、公権力が「拘禁」に関して理由を告知しなくてもよいケースが例外的に認められる解釈を許容している点で問題があると言えるでしょう。

さらに第2項では「拘禁」に際してその理由の告知を求めることのできる主体が「拘禁された者」に限定されてしまう解釈が文理的に成立してしまうことになり、現行憲法で法定代理人や利害関係人等に認められている理由の告知を取り上げてしまうことになる点で「人身の自由」という人権保障の観点から大きな危険を指摘できます。

このように、自民党憲法改正草案第34条は一見すると現行憲法第34条を若干変更しただけのような条文を明記していますが、その実態は「抑留」と「拘禁」に関して国民に保障された「人身の自由」を大きく損なう危険性を孕んでいますので、その点を十分に認識して賛否を判断することが求められます。