自民党がウェブ上で公開している憲法改正草案を条文ごとに細かくチェックしてその問題点を指摘するこのシリーズ。
今回は、自民党憲法改正案の「第7条」について確認してみることにいたしましょう。
なお、この記事の概要は大浦崑のYouTube動画でもご覧になれます。
記事を読むのが面倒な方は動画の方をご視聴ください。
自民党草案における天皇の摂政に関する規定
自民党憲法改正案の第7条には天皇の摂政に関する規定が置かれることになっていますが、現行憲法における摂政の規定は第5条に置かれていますので、現行憲法の第5条が自民党草案の第7条に移動した形になっています。
もっとも、自民党草案の第7条は現行憲法とは若干の違いがありますのでその点を確認してみましょう。
この点、現行憲法の第5条は次のように規定されています。
【日本国憲法第5条】
皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
※第2項の「前条第一項の規定」の部分は以下のとおりです。
【日本国憲法第4条1項】
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
一方、自民党草案の第7条は次のように規定されています。
【自民党憲法改正草案:第7条】
第1項 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
第2項 第五条及び前条第四項の規定は、摂政において準用する。※第2項の「第五条及び前条第四項の規定」の部分は以下のとおりです。
【自民党憲法改正草案:第5条】
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。
【自民党憲法改正草案:第6条4項】
天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。
※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成
ちなみに、「摂政」とは、皇位を継承した天皇が成年に達しない場合や、精神や身体に関する重大な事故等で国事行為を行えない場合に、天皇に代わってその行為を代行する行為者のことをいいます。
摂政に関する自民党憲法改正草案〔第7条〕の問題点
では、この自民党憲法改正草案の第7条は具体的にどの点が問題なのでしょうか。
あくまでも私見ですが、次の2つの点に問題があると考えます。
(1)「のみ」の文言が準用されなくなったことで摂政の権能が強化されること
まず指摘できるのが、自民党案では摂政の権能がその「国事行為」に必ずしも限られなくなっている点です。
現行憲法第5条が準用する「前条第一項」の第4条1項には「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ」と規定されていますから、摂政が置かれた場合においても、その摂政は「国事行為しか」することができません。
国事行為は象徴的・儀礼的な行為として列挙された行為のことを言いますが(※現行憲法では第6条ないし7条に、自民党案では第6条に列挙されています)、「のみ」と言う文言はその前に置かれたものを限定する意味合いをもちますので、天皇の権能がその国事行為に限られている以上、それを準用して代行する摂政の権能も象徴的・儀礼的な「国事行為」に限られることになるからです。
もちろん、現行憲法でも、憲法の「解釈」によって天皇が国事行為以外の「公的行為」や「私的行為」をすることも認められていますが、明文の規定として認められているのは「のみ」と規定された「国事行為」だけなので、基本的にはその憲法で明記した国事行為に限られているわけです。
しかし、自民党改正案第7条が準用する自民党案第5条では、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為を行い」と「のみ」の文言が外されて規定されていますから、それを準用する摂政の権能も必ずしも国事行為に限られないことになってしまいます。
つまり、自民党改正案第7条が国民投票を通過すれば、摂政ができる行為の範囲が国事行為以外に広げられる余地が生じるのです。
ですが、『自民党憲法改正案の問題点:第5条|国事行為に限定されない天皇』のページでも説明したように、天皇(摂政)の権能を拡大させてその権能を強化することは、相対的に主権者である国民の主権を後退させることにつながりますから、民主主義の観点から問題が生じます。
摂政(天皇)の権能を強化すれば、天皇(摂政)を「神聖ニシテ侵スへカラス」と規定して絶対的・普遍的な存在として位置付けることで国民の自由や人権を制限し、不毛な戦禍を拡大させた明治憲法(大日本帝国憲法)の過ちを繰り返す危険を生じさせますから、その意味でも自民党憲法改正草案の第7条は問題があると言えます。
※なお、この点は『自民党憲法改正案の問題点:第5条|国事行為に限定されない天皇』のページで詳しく解説しています。
(2)「助言と承認」が「進言」に置き換えられたことで摂政が内閣の「上」に位置付けられたこと
自民党憲法改正草案の第7条は、摂政の地位を内閣の「上」に位置付けている点も問題です。
自民党案第7条2項は自民党案第6条4項を準用することにしていますが、その6条4項では天皇の国事行為に内閣の「進言」を必要としていますので、摂政の国事行為にも当然、内閣の「進言」が必要です。
しかし、「進言」は立場や地位や身分などが「下」の者が、それが「上」の者に対して助言等を与えることを意味しますので、自民党案第7条は必然的に天皇を内閣の「上」に位置付けていることになります。
この点、現行憲法でも摂政の国事行為に内閣のコントロールは必要だと解釈されていますが、現行憲法で天皇の国事行為に必要とされるのは内閣の「助言と承認」であって、助言や承認という言葉には、地位や立場や身分は含意されていません。
つまり、現行憲法では摂政(天皇)と内閣の位置づけに地位的な上下は存在しないにもかかわらず、自民党草案第7条は内閣の「進言」を必要とさる条文を準用させることで摂政を内閣の「上」に位置付け、摂政の地位を強化することにしているのです。
しかし、摂政の地位を強化することは、先ほど説明したように天皇を絶対的・普遍的な存在として位置付けた明治憲法(大日本帝国憲法)の過ちを繰り返す危険性を生じさせますので、それは国民主権の後退を招き、民主主義の破壊を招来させます。
ですから、その意味でも自民党憲法改正草案の第7条は民主主義の観点から問題があると言えるのです。
※なお、この点の詳細は『自民党憲法改正案の問題点:第6条4項|助言と承認を「進言」に』のページで詳しく解説しています。