自民党憲法改正案の問題点:第64条の2|政党の弾圧を合憲に

憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に違反して執拗に憲法改正に固執し続ける自民党が公開している憲法改正草案の問題点を一条ずつチェックしていくこのシリーズ。

今回は、政党に関する条文を新設した自民党憲法改正草案第64条2の問題点を考えてみることにいたしましょう。

政党に関する規定を新設した自民党憲法改正草案第64条の2

今述べたように、自民党憲法改正草案の第64条の2は、現行憲法では明文の規定として存在しない「政党」に関する規定を新設しています。

具体的にどのような規定が新設されているのか、その条文を確認してみましょう。

自民党憲法改正草案第64条の2

第1項 国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることに鑑み、その活動の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない。
第2項 政党の政治活動の自由は、保障する。
第3項 前二項に定めるもののほか、政党に関する事項は、法律で定める。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

このように、自民党憲法改正草案は第64条の2を新設し、その第1項で政党の「活動の公正の確保」と政党の「健全な発展」に国が努めなければならない努力義務を規定するとともに、第2項で政党の「政治活動の自由」を保障し、第3項で政党に関するその他の事項を「法律で定める」として法律事項とする委任規定を置いています。

この点、第1項の「政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることに鑑み」の部分は、おそらく政党が憲法上当然に予定されたものだと判示した昭和45年6月24日の最高裁判例を意識したものでしょう。

(中略)憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない。(以下省略)

※出典:最高裁昭和45年6月24日判決|裁判所判例検索 2頁より引用

現行憲法では「政党」に関する規定は存在しませんが、憲法第21条が「結社の自由」を保障しており、議院内閣制を採用している(憲法66~68条等)ことから考えても、現行憲法は政党の存在を当然のこととして予想しているものと解されています(※芦部信喜著、高橋和之補訂「憲法」280頁)。

そのため自民党改正案も、「政党」を明文の規定として明確にすることで憲法で特別の地位がある組織として位置付け、積極的に保護しようとする趣旨から第64条の2を新設することにしたのでしょう。

では、こうして「政党」を憲法に明文の規定として明記することは、具体的にどのような問題を生じさせるのでしょうか。

「政党」が憲法に編入されると「政党の自由かつ健全な発展が阻害されるおそれ」が生じる

この点、結論から言えば、こうして「政党」を憲法に明文の規定として置くことは、「政党の自由かつ健全な発展が阻害されるおそれ」を生じさせてしまう点で大きな問題があると言えます。

なぜなら、憲法に「政党」が明記されて公的機関の性格が強められることになれば、民主主義の概念が多義的であるがゆえに、いわゆる「戦う民主主義」の名の下に、法律によって党内民主主義を規制したり、反民主主義政党を排除したりすることが憲法で許容されてしまう懸念が生じてしまうからです(前掲芦部書280~282頁)。

第二次世界大戦後の一部の国では政党を自民党改正案第64条の2のように憲法制度の中に編入している憲法がいくつか存在しますが、その代表例としてドイツが挙げられます。

ドイツ憲法(連邦共和国基本法)は第21条に「政党」に関する規定を置いていますが、そこでは次に引用するように、「民主主義の諸原則に適合してい」ない政党を認めないとして党内民主主義を規制することを許容するとともに、「目的」または「党員の行動」が「自由で民主的な基本秩序を侵害もしくは除去」する政党や、その「目的」や「支持者の振る舞い」から「自由民主的基本秩序を損なうかまたは廃止」する政党であったり、「ドイツ連邦共和国の存立を危くすることを目指す」政党を排除することを認めています。

ドイツ連邦共和国基本法第21条

(1) 政党は、国民の政治的意思形成に協力する。その設立は自由である。政党の内部秩序は、民主主義の諸原則に適合していなければならない。政党は、その資金の出所および使途について、ならびにその財産について、公的に報告しなけれはならない。
(2) 政党で、その目的または党員の行動が自由で民主的な基本秩序を侵害もしくは除去し、または、ドイツ連邦共和国の存立を危くすることを目指すものは、違憲である。違憲の問題については、連邦憲法裁判所が決定する。
(3) 政党にして、その目的または支持者の振る舞いから、自由民主的基本秩序を損なうかまたは廃止、またはドイツ連邦共和国の存立の危険に晒すものは、国家財政から排除される。排除が決定された場合、これらの政党に対する税制上の優遇措置およびこれらの政党への寄付も失われる。
(4)(※以下省略)

※出典:http://www.fitweb.or.jp/~nkgw/dgg/

つまり、その党内秩序や政党の目的、党員の振る舞い等を理由に、法律をもって特定の政党を規制し排除することが憲法で許されているわけです。

しかしそうなれば、法律さえ整備しておけば特定の政党を除去し排除することもできることになりますので、あらかじめ法律を整備することで特定の政党の党内民主主義を規制したり、特定の反民主主義政党を排除したりすることもできるようになってしまいます。

たとえば、ドイツでは冷戦以降、この基本法第21条の下で連邦憲法裁判所から1952年に右翼政党の社会主義国家党に、また1956年にドイツ共産党に対して違憲判決が出されたり、自由ドイツ青年団や独ソ友好協会、ドイツ民主主義婦人連盟、西ドイツ平和委員会、ドイツ民主主義文化連盟などの市民団体が非合法化されるなど、政党の自由で健全な発展が阻害される副作用が現実に生じてきました(※出典:https://www.jlaf.jp/old/jlaf_file/060516tikujyou.pdf 98頁)。

もちろん、ドイツでは戦前のワイマール憲法の下でナチス党を生み出してしまった反省から、こうした民主主義に反する政党を排除する必要性が求められたのでしょうから、ドイツでは政党を憲法に編入しなければならない合理的な理由はあったと言えます。

しかし東西統一以降のドイツでは徐々に左派政党が議席を増やしているそうですから(※https://www.jlaf.jp/old/jlaf_file/060516tikujyou.pdf 99頁)、ドイツは基本法第21条が政党を憲法に編入し公的機関の性格を強めたことによって「政党の自由かつ健全な発展が阻害」され左派政党の発展を阻害してしまったことの反省から、如何にして「政党の自由かつ健全な発展」を確保していくかが求められている状況にあると言えます。

つまり今のドイツは、憲法に政党を編入したことによって生じた「政党の自由かつ健全な発展が阻害されるおそれ」という副作用に苦悩した反省から、その修正が求められている最中にあると言えるわけです。

自民党憲法改正案第64条の2が「政党」を明文化したことで自民党と対立する政党が抑圧される危険性

一方、そのドイツでは修正が求められている「政党の憲法への編入」をあえて憲法改正で具現化しようとしているのが自民党憲法改正案第64条の2の規定です。

しかし、今紹介したドイツのように、憲法に政党を編入(明記)してしまうと、政党が公的機関の性格を強めることになり、いわゆる「戦う民主守備」の名の下に、法律によって党内民主主義を規制したり、反民主主義を排除したりすることになる結果、政党の自由かつ健全な発展が阻害されるおそれが生じてしまいますから(※芦部信喜著、高橋和之補訂「憲法」281~282頁)、そうした改正は消極的に解すべきでしょう。

この点、自民党憲法改正草案第64条の2のように政党が憲法に編入(明記)されることで具体的にどのような「政党の自由かつ健全な発展が阻害されるおそれ」が生じるかという点が問題となりますが、あくまでも私個人の懸念にはなりますけれども次の2点が考えられます。

(1)共産党その他の自民党と相容れない政党が排除されるおそれ

まず懸念されるのが、日本共産党や自民党と方向性の違うその他の政党が排除されてしまう危険性です。

前述したように、自民党憲法改正草案第64条の2は第1項で

国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることに鑑み、その活動の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない。

と規定していますから、この改正案が国民投票を通過すれば、国には国政政党の「活動の公正の確保」と「健全な発展」に努めることが義務付けられることになりますので、国(政府)が政党の「活動の公正の確保」に努めないことや政党の「健全な発展」に努めないことが憲法違反となってしまいます。

そうなると、改正後の日本では、国(政府)が「活動が公正ではない」と判断した政党の活動の確保に努めたり「健全ではない」と認定した政党の発展に努めることが憲法違反となってしまいますから、その対象となる政党の活動が「公正」であること、またその政党の発展が「健全」なものであることは憲法上当然の前提となってしまうでしょう。

つまり、自民党改正案が国民投票を通過した後の日本では「活動が公正ではない」もしくは「健全ではない」政党の存在自体が違憲性を帯びてしまうので、あらかじめ法律さえ整備しておけば、国(政府)が「活動が公正ではない」と判断したり「健全ではない」と認定した政党を規制したり排除することも認められるようになってしまうのです。

しかし、仮にそうなれば、改正後の日本では国(政府)が特定の政党を恣意的な判断で自由にその活動を制限したり政党の存在自体を排除することもできるようになってしまいます。

その政党が「活動が公正ではない」または「健全ではない」と判断するのはあくまでも国(政府)なので、国(政府※つまり自民党)が「活動が公正ではない」と判断し、または「健全ではない」と認定するだけで、いくらでも自由に特定の政党を排除することが可能になるからです。

この点、この改正で真っ先に標的にされるのは日本共産党でしょう。

なぜなら、政府(自民党政権)は、衆参両議院で日本共産党と破壊活動防止法に関する質問がなされた際、「日本共産党は、現在においても、破壊活動防止法に基づく調査対象団体である」との答弁を繰り返していて(※衆議院議員鈴木貴子君提出日本共産党と「破壊活動防止法」に関する質問に対する答弁書|内閣衆質一九〇第一八九号:平成28年3月22日参議院議員鈴木宗男君提出日本共産党と破壊活動防止法に関する質問に対する答弁書|内閣参質二〇三第一三号:令和2年11月20日)、『「暴力革命の方針」に変更はないものと認識している』との認識を変えていないからです。

政府(※政権与党の自民・公明)が共産党について「暴力革命の方針」をとっていると言うのなら、政府は共産党の活動を「公正」ではないと判断し「健全」ではないと認識していることになりますから、自民党憲法改正案が国民投票を通過すれば、改正後の日本で日本共産党は、その存在自体が違憲性を帯びてしまうでしょう。

つまり、自民党憲法改正草案第64条の2が国民投票を通過すれば、国(政府※自民党)が共産党を「排除しないこと」が「(政党の)活動の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない」と規定した憲法規定に違反してしまうことになるので、国(政府※自民党)が日本共産党を弾圧し排除しても、憲法違反とはならなくなってしまうのです。

もちろんこれは共産党だけの問題ではありません。先ほど述べたようにその政党が「活動が公正ではない」または「健全ではない」と判断するのはあくまでも政府(自民党)なので、立憲民主党であろうと社民党であろうと他の野党であろうと、自民党の方針に反対する政党があれば、自民党の判断によって抑圧・弾圧され、存在自体が許されなくなってしまうでしょう。

すなわち、自民党憲法改正草案第64条の2は、自民党が自民党に反対する政党を弾圧し排除することを憲法で認めてしまう極めて危険な条文と言えるのです。

(2)政治が一元化し「一国一党」になるおそれ

このように、自民党憲法改正草案第64条の2は、国(政府※自民党)が「活動が公正ではない」と判断しまたは「健全ではない」と認定した政党を自由に弾圧し排除することを憲法で合憲と位置付けるための規定です。

しかし、自民党に反対する政党を排除することが認められるなら、自民党と親和性を持つ(または親和性を持てる)政党しか存在できませんので、必然的に生き残るのは、今の公明党や日本維新の会などのように、自民党に迎合し追従できる政党だけとなってしまうでしょう。

それはすなわち、政治が一元化し「一国一党」の政治体制になってしまうということです。

改正後の日本では、政治は自民党の下に一元化され、事実上の「一国一党」体制となりますから、仮に野党が存続できたとしても、その野党はただ自民党の方針に賛意を示すだけの存在となり果てるだけとなるでしょう。

つまり、戦前の日本がそうであったように翼賛体制の政治が実現されることになるわけです。

しかしそうした翼賛体制の下で全体主義的な方向に傾斜した80年前の日本は、軍国主義を拡大させ敗戦まで導かれててしまったのですから、その失敗を顧みるならそうした政治体制を復活すべきではありません。

また、一党独裁体制の続く某国では、国民の自由と権利が制限され、国民は抑圧され続けているのですから、そうした抑圧や弾圧を容易にする「一国一党」の政治体制は許容するべきではないでしょう。

このように、自民党憲法改正草案第64条の2は、政治を一元化し事実上の「一国一党」体制を実現させてしまうことで、戦前の翼賛体制の下にあった日本や、一党独裁政治の続く某国のような統治体制を招いてしまう恐れも指摘できますから、極めて危険な条文であると言えるのです。

野党の弾圧に使われる自民党憲法改正草案第64条の2は極めて危険な条文

以上で説明したように、自民党憲法改正草案第64条の2は「政党」を憲法に編入することで政党の保護を謳っていますが、こうした規定が憲法に明記されてしまうと、その規定を根拠に国家権力が特定の政党を抑圧し弾圧することも憲法で正当化されてしまうことになるので大変危険です。

こうした改正によって野党が弾圧されて政治が一元化され「一国一党」の統治体制が実現してしまえば、もはや国民は政府(自民党)に抗う術を失ってしまいますので、自民党の一党独裁体制の下、奴隷の自由しか享受できなくなってしまうでしょう。

そうした危険な条文を憲法に新設しなければならない理由がどこにあるのか、国民は冷静に考える必要があります。