憲法に自衛隊を明記するだけで先制攻撃ができるようになる理由

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憲法改正を積極的に推し進めている自民党は憲法9条に「国防軍」を明記することを求めていますが(日本国憲法改正草案(平成24年4月27日(決定))|自由民主党憲法改正推進本部)、連立を組む公明党や自民党に追随する一部の国会議員(いわゆる改憲勢力)に配慮して、「国防軍」ではなく憲法9条に「自衛隊」を明記する憲法改正案で妥協して国会の発議(憲法96条)にかけてくるのではないかと思われます。

自衛隊は現行憲法9条の下ですでに運用されていますから、憲法9条に「自衛隊」を明記するだけであれば国民の多くは「現状と変わらない」と認識しその反発も軽減されるため、いわゆる改憲勢力の国会議員の抵抗も少ないと考えられるからです。

しかし、自衛隊が憲法に明記されれば自衛隊の任務や権限は「今と変わらない」どころか現行憲法のそれよりも大きく変更されることになるのは避けられません。

具体的に変更される任務や権限はいくつか挙げられますが、その中でも代表的な変更点として挙げられるのが、現行憲法では認められていない「先制攻撃」が、憲法に自衛隊を明記することで認められるようになってしまうという点です。

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現行憲法で「先制攻撃」が認められない理由

自衛隊を憲法9条に明記することでなぜ、現行憲法では認められていない「先制攻撃」が認められるようになるかを考える前提として、まずそもそも現行憲法ではどのような理屈で先制攻撃が認められていないと解釈されているのかを理解してもらう必要があります。

現行憲法で先制攻撃が認められない理由を正確に理解しないと、憲法に自衛隊を明記することでなぜ先制攻撃が認められるのかという理由も正確に理解しえないからです。

この点、現行憲法で先制攻撃が認められていない理由は、端的にいえば、歴代の政府が自衛隊を「必要最小限度の実力」と説明することで自衛隊の違憲性を回避してきた事実があるからに他なりません。

憲法9条2項で放棄された「戦力」とは具体的に何なのか』のページでも詳しく解説したように今現実に存在する自衛隊の装備と組織は憲法学の通説的な見解に立って考えれば憲法9条2項の「戦力」に該当するため「違憲」と解釈されることになりますが、歴代の政府は全ての独立国家に国を守るための「固有の自衛権」が認められているから「自衛のための必要最小限度の実力」の保持は憲法9条2項の下でも放棄されていないとする解釈を採ってきました。

つまり、歴代の政府は自衛隊の組織と装備は国家として当然に認められる「固有の自衛権」を行使するための「必要最小限度の実力」に過ぎず憲法9条2項の「戦力」にはあたらないので憲法上合憲だという理屈を持ち出すことで自衛隊を「合憲」と解釈してこれまで運用してきたわけです。

自衛隊の組織と装備は「戦力」ではなく「必要最小限度の実力」なので憲法上合憲というのが歴代の政府がとってきた理屈ですから、当然その自衛隊の武力の行使も「必要最小限度」でなければなりません。自衛隊の任務や権限が「必要最小限度」を超えてしまえば、政府がとってきた「自衛隊は必要最小限度の実力に過ぎず憲法9条2項の”戦力”ではないから合憲だ」というロジックが破綻してしまうからです。

しかし、敵対する国から実際に攻撃を受ける前の段階で、ただ「攻撃される可能性がある」というだけの判断で相手国を攻撃する「先制攻撃」は「必要最小限度」とは言えません。

そのため歴代の政府は、現行憲法の下では「先制攻撃」は認められないという解釈の下で自衛隊を運用してきたわけです。

※以上の点は『先制攻撃が自衛隊に認められないと憲法論的に解釈される理由
』のページで詳しく解説しています。

自衛隊を憲法9条に明記するだけで「先制攻撃」が認められることになる理由

このように、歴代の政府が自衛隊に「先制攻撃」が認められないと解釈してきたのは、憲法学の通説的な見解では自衛隊が憲法9条2項の「戦力」にあたり「違憲」と解釈されていることから、その自衛隊の違憲性を回避するために、自衛隊を国家に当然に認められた「固有の自衛権」を行使するための「必要最小限度の実力」と説明して運用しなければならなかったからに他なりません。

歴代の政府は、自衛隊が「必要最小限度の実力」であって憲法9条2項の「戦力」にはあたらないと説明しなければ自衛隊を運用することができませんから、自衛隊の任務と権限を「必要最小限度」の範囲に留める必要があります。そのため歴代の政府は「必要最小限度」を超える武力行使となりうる「先制攻撃」をあえて自衛隊に許容してこなかったわけです。

では、もし仮に今の自民党や改憲勢力が求めているように、憲法9条を改正して自衛隊を憲法に明記する憲法改正が実現してしまった場合、この憲法解釈はどのように変わってしまうでしょうか。

この点、憲法に自衛隊が明文で規定されれば、その自衛隊の戦備の保持とその戦備を行使して行われる自衛のための戦争を国民が国民投票で認めたということになりますので、自衛隊という組織が「憲法上合憲であること」が学説上確定することになります。

自衛隊が憲法上「合憲」として学説上の判断が確定することになれば、自衛隊の戦力が憲法9条2項の「戦力」にあたるかあたらないかにかかわらず自衛隊は「合憲」と判断されることになりますから、もはや政府はこれまでのように自衛隊を「必要最小限度の実力」と説明する必要はありません。

先ほど説明したように、歴代の政府が自衛隊を「必要最小限度の実力」と説明してきたのは、そう説明しなければ憲法学の通説的な見解で自衛隊が憲法9条2項の「戦力」にあたると解釈されて「違憲」と判断されてしまうからに他ならないからです。

そうすると、憲法に自衛隊が明記された後に存在する自衛隊は、たとえその任務や権限が「必要最小限度」を超えたとしても、憲法上「違憲」と判断されることはないことになりますから、その任務や権限も「必要最小限度」を超えないものに制限されることはないことになるでしょう。

自衛隊の任務や権限が「必要最小限度」に限られなくても「合憲」であるのなら、憲法改正後の自衛隊は今までのように他国から実際に攻撃されない状態で自ら「先制攻撃」したとしても、憲法に違反することにはなりません。

憲法に自衛隊を明記した後に存在する自衛隊は、独立国家として当然に認められる「国家固有の自衛権」の範囲で武力(軍事力)行使することが認められることになり、その「固有の自衛権」の範囲で武力(軍事力)を行使することを国民が憲法で認めたことになるので、「自衛のための必要最小限度」を超える「先制攻撃」を行っても、それが「自衛権の行使」として必要なものであれば、憲法違反ということにはならないからです。

つまり、憲法に自衛隊が明記されていない現行憲法では、自衛隊が「憲法9条2項の”戦力”にあたるかあたらないか」という点の解釈の問題から、自衛隊の攻撃に「必要最小限度」という「縛り」が掛けられているので「先制攻撃」は認められませんが、憲法に自衛隊が明文の規定で明記された後は、その「必要最小限度」という「縛り」が外されてしまうことになるので、自衛隊の「先制攻撃」も認められるようになるわけです。

憲法に自衛隊を明記する憲法改正は「必要最小限度」という自衛隊の「縛り」を開放させるもの

自民党やその他の改憲勢力が目指している自衛隊を憲法9条に明記する憲法の改正は、今現実に存在し活動している自衛隊を憲法に「規定するだけ」に過ぎないと思われがちですが、実際はそう簡単なものではありません。

ここで述べたように、憲法学における通説的な見解や政府の見解を掘り下げて考えれば、歴代の政府がこれまで自衛隊に掛けてきた「必要最小限度」という「縛り」を取り払い、自衛隊の任務と権限を「必要最小限度」にとどまらない制約のない武力(軍事力)組織にしてしまうのが、今の日本で議論されている「自衛隊を憲法に明記する」という憲法改正議論の本質と言えるのです。

憲法に自衛隊が明記されれば、日本国民が自衛のための「国家固有の自衛権」の行使を日本国という国家権力に対して認めたということになりますので、それ以後の自衛隊は他国から実際に攻撃を受けておらず「急迫不正の侵害」が現実に発生していなくても、「自衛のため」という大義名分さえあれば自由に「先制攻撃」を行って他国を破壊することが際限なく認められることになります。

今の日本に存在している自衛隊は「必要最小限度」の範囲でしか武力(兵器)を行使することができませんが、憲法に自衛隊が明記された後の自衛隊は「必要最小限度」の範囲を超えて武力(軍事力)を行使することができますので、その任務や権限は際限なく広がることになるでしょう。

もちろん、憲法に自衛隊を明記するかしないかは国民が決めることですから、国民がそのような「必要最小限度」という「縛り」に制限されない自衛隊が必要だと考えるのであれば、自民党やその他の改憲勢力が求める憲法改正案に賛成すればよいと思います。

しかし、このような憲法9条2項の「戦力」の解釈と憲法学説における通説的な見解、また歴代の政府が自衛隊を「必要最小限度の実力」と説明することでかろうじて運営することができた事実を理解せず、自衛隊を憲法に明記することでその「必要最小限度」という「縛り」が撤廃されることを知らないまま安易な憲法改正に同意した場合には、将来の国民に本来意図しない大きな災いを与えてしまう危険性があることを、全ての国民が認識しなければならないと言えます。