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アベノミクスの失敗を認めない政府の本質的意図はどこにあるか

参議院議員選挙の投票日(2019年7月21日)まであとわずかとなりました。

今回の参議院選挙では、金融庁が作成したいわゆる「年金に頼るな、2000万円貯めておけ」報告書に起因して国民的議論をまきおこした年金問題を筆頭に、少子化対策や消費税の引き上げなど様々な問題が争点として挙げられているようですが、アベノミクスの成果についても当然、その争点の一つになっていると言えるでしょう。

このアベノミクスの成果については、ネット上でも野党支持者を中心に「アベノミクスは失敗だ!」などと批判する主張が多く見受けられます。

このような批判はもちろん、政府が「賃金は上がった」「失業率は改善した」などとあたかも景気がよくなったかのように成果を強調して宣伝する一方で、大多数の国民が経済不況から抜け出せていないと実感し、「生活が苦しい」と感じている事実があるからです。

しかし、私はこのように「アベノミクスは失敗だ!」と短絡的に考える思考は、そう考えること自体が大変危険なことだと認識しています。

なぜなら、アベノミクスを経済政策とは別の視点から考察すれば、その成果は着実に実現されており、ただ単に「失敗だ」と評価してしまうことで国民が知らぬ間に日本が大日本帝国に変えられてしまう危険性を感じるからです。

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アベノミクスの目的が「経済破綻」にあるとすれば成功といえる

政府は「株価は上がった」「雇用者数も上がった」「賃金も上がった」などとアベノミクスの成果を強調しますが、果たしてそうでしょうか。

確かに、異次元の金融緩和によって株価は上がりましたが、それは単に日銀がバラ撒いた資金が日本株を爆買いしたため外見上株価が吊り上げられただけに過ぎず、実体経済の伴わない砂上の楼閣のように見えてしまいます。

また、第ニ次安倍政権が発足した2012年当時1ドル80円ほどだった円相場はアベノミクスの金融緩和策によって今では110円前後まで売られてしまいましたが、こうした円安への主導は輸出企業を為替差益でボロ儲けさせた一方で、輸入品の価格は上がり、マヨネーズやクッキーの内容量が減らされるなど「ステルス値上げ」で徐々に物価は上昇し続けているとも言えます。

また、雇用者数は確かに上がったのかもしれませんが、実際はそのほとんどは非正規労働者が中心で、団塊世代の退職で求職者の分母が減少したことや、年金だけでは生活できない高齢者の求人が増えただけのようにも思えます。

賃金の上昇についても一部の大企業ではそうなのかもしれませんが、中小企業で働く大部分の国民は賃金上昇の恩恵を受けているとは言えませんし非正規労働者が増え続けていることを考えても到底「賃金が上がった」とは言えないでしょう。

このように考えると、アベノミクスは明らかに失敗だったと言えるわけですが、見方を変えて、アベノミクスが「経済政策ではなかった」としたらどうでしょう。

つまり、アベノミクスがデフレ脱却を目的としたものではなく、むしろデフレを深刻化させつつ賃金上昇を抑えてスタグフレーションに誘導し経済の衰退を深刻化させて日本経済を破綻させることを目的とした経済破綻政策だったのではないかと仮定してみるわけです。

このように仮定した場合、第二次安倍政権が発足した2012年以降、円安が進んで物価が上昇した一方で賃金は上がらず多くの国民が貧困にあえいでいることの説明もつきます。アベノミクスがスタグフレーションに誘導し日本経済を破綻させることを目的としているとすれば、安倍政権の政策によってその通りに日本経済は疲弊し続けているからです。

つまり、アベノミクスがデフレ脱却を目的とした「経済政策」ではなく、日本の経済破綻を目的とし経済不況の深刻化を意図したスタグフレーション強化政策であったと考えれば、紛れもなくアベノミクスは「成功」していたと言えるわけです。

なぜ「経済破綻」を望む人がいるのか

この点、「政府が経済破綻を目的とした政策なんか行うわけがないだろう」と思う人も多いでしょうが、そうとは言い切れません。

国家の経済破綻や経済不況の深刻化は常識的に考えれば国家運営に消極的な材料になりますが、戦争や他国の侵略を目論む為政者にとって、国家の経済破綻はむしろ国民を戦争に誘導する格好の積極的材料になるからです。

国の経済が疲弊すれば国民の不満は募りますが、その不満の矛先を他国に転嫁すれば、容易に国民を戦争に駆り立てることができます。

そのため戦争を好む為政者は、国の経済的破綻を積極的に利用することがあるのです。

具体的な例を挙げるとすれば、ナチズムを一般化させて欧州全土を恐怖に陥れたヒトラーが代表的です。

ヒトラーがナチズムの確立に利用した3つの要素

ヒトラーがナチズムを確立させるために利用した要素は様々な角度から検証することができると思いますが、大きく分ければ以下に挙げる3つが代表的な要素として挙げられます。

(1)第一次世界大戦の多額の賠償金請求によって生じた経済不況

ヒトラーがナチズムの確立に利用した要素としてまず最初に挙げられるのが、ドイツにおける経済不況です。

第二次大戦前のドイツは、第一次世界大戦で課せられた多額の賠償金の支払いに疲弊していましたから、当時のドイツは経済不況の危機に直面している状況にありました。そんな中で登場したのがヒトラーです。

第一次世界大戦の賠償金自体は1932年のローザンヌ会議で事実上免除されましたが、ヒトラーは経済不況にあえいでいたドイツ国民を巧みな演説で誘惑し、ナチスの支持を拡大させて実権を掌握しましたから、ヒトラーは経済不況に苦しめられていた国民の心理を巧みに利用しナチズムを一般化させることに成功したと言えます。

当時のドイツ国民は、経済不況から解放してくれるのはヒトラーしかいないと確信したからこそポーランド侵攻から欧州全土に至るナチスの侵略政策に同意したわけですから、仮に当時のドイツに経済不況が存在しなかったなら、ヒトラーやナチスは歴史の表舞台には出てこなかったかもしれません。

つまり、ヒトラーはドイツの経済不況を巧みに利用し、ドイツ国民にナチズムを浸透させてナチズムを確立させたわけです。

(2)国民の不満の矛先をかわすユダヤ人の迫害政策

ヒトラーがナチズムを確立させるために利用した要素の2つ目は、ユダヤ人です。

ナチスは「ユダヤ人がドイツ人の富を奪っている」「第一次世界大戦で負けたのはユダヤ人の策謀があったからだ」と宣伝することで国民の不満の矛先をユダヤ人に向けることに成功し、国民をユダヤ人迫害政策に誘導しました。

第一次世界大戦後のドイツは経済的に疲弊していた一方、当時の欧州のユダヤ人社会は経済的に成功している人も多くいましたから、「生活が苦しいのはユダヤ人のせいだ」というプロパガンダを宣伝すれば、不況にあえぐ労働者階級を取り込むことができ、国政に対する不満をかわすことができるからです。

つまりナチスは、ナチズムを一般化させるために、国内にあえてユダヤ人という「敵」を作り出し、そのユダヤ人を政治停滞や経済不況のスケープゴートとして利用したわけです。

(3)ワイマール憲法の破壊

ヒトラーがナチズムを確立させるために利用した要素の3つ目はワイマール憲法です。

当時のドイツでは世界でも先進的なワイマール憲法が施行されていましたが、その制度的欠陥を利用してヒトラーはワイマール憲法を破棄し、その機能を停止させて国権を掌握しました。

つまりヒトラーは、既存の憲法を破壊してナチズムを確立させたわけです。

麻生太郎の「ナチスに学べ」が現実に起きているとすれば…

このように、ナチスの行った政策を確認すれば、ヒトラーを中心としたナチス党は「経済不況」「ユダヤ人迫害」「憲法の破壊」という3つの要素を巧みに利用してナチズムという極右思想・全体主義思想を確立させたことが分かります。

ところで、ここで気になるのが自民党の麻生太郎財務大臣(衆議院議員)が過去に行った「ナチスに学べ」発言です。

麻生太郎氏は、2013年7月29日に東京都内で行った講演で、「ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね」と発言しています(※参考→問題発言集 写真特集:時事ドットコム)。

この発言について麻生氏は同年8月1日に公式に撤回していますから、形式的にはこの「ナチスに学べ」発言は、麻生氏の本心や政府の見解とは無関係だったということになっています。

しかし、本当にそうなのでしょうか。

ア)「朝鮮学校の無償化制度からの排除」政策はユダヤ人の迫害に通じる

たとえば、今の安倍政権がとっている朝鮮学校を高校授業料無償化制度から排除する政策です。

いわゆる高校無償化法では学校教育法で指定されるいわゆる一条校だけでなく、法的には各種学校の扱いを受ける外国人学校もその適用対象とされていて、在日韓国人が通う韓国学校や在日中国人が通う中国学校にも広く適用されています。

しかし、安倍政権は拉致問題が解決していないことやミサイル発射問題など外交的な問題を理由に、在日朝鮮人が通う朝鮮学校だけを高校授業料無償化制度の対象から除外し、在日朝鮮人の子どもだけを「(在日)朝鮮人だから」という理由で無償化制度から排除し続けています(詳細は→朝鮮学校における高校授業料の無償化裁判の経緯と概要)。

つまり政府は、朝鮮学校に通う在日朝鮮人の子どもに当然に支給されてしかるべき就学支援金を在日朝鮮人の生徒だけに支払わない方法を用いて在日朝鮮人を差別し続けているわけですが、これは特定の人種(民族)をその人種(民族)であるというだけで差別していることに他なりませんから、明らかな人種差別(民族差別)と言えます(※詳細は→朝鮮学校を高校無償化から排除することが人種差別となる理由)。

そして、政府がとるこのような人種(民族)差別政策は、在日外国人に差別的思想を持つ一部のレイシスト勢力に強く支持され、彼らがネット上で主張している「在日特権」なるデマゴギーの拡散を正当化させる根拠の一つとして利用されています。

また、こうした政府の在日朝鮮人に向けた差別は、在日外国人が所得税や消費税を納付していることを全く無視した「日本人の血税を国籍のない外国人のために使うな!」などという頓珍漢な主張と共に差別主義的思想を持つ一部の国民が扇動する在日外国人社会全体への差別につながり、生活保護など社会保障全体の適用を制限的に運用する行政の措置に賛同する世論づくりにも影響を与えています。

このような事実は、前述の(2)で説明したような、ヒトラーがナチズムを一般化させるために採用したユダヤ人の迫害政策に通じるものがあります。

ヒトラーは、ユダヤ人をスケープゴートに仕立て上げて差別・迫害し、国民の不満の矛先をユダヤ人に向けさせることで、その不満をいなし、ナチズムを一般化させていきました。

そうした歴史的事実を踏まえれば、安倍政権が在日朝鮮人を差別し続けるのも、在日朝鮮人を政治停滞のスケープゴートに仕立て上げて差別し迫害し、国民の不満の矛先を在日朝鮮人に向けることで、政府への不満をいなし、政府の望む国家への国政転換思想を一般化させるためであるかのように見えてしまいます。

イ)安倍政権が固執する「憲法改正」はワイマール憲法の破壊に通じる

また、安倍政権やそれに迎合するいわゆる改憲勢力が固執し続ける憲法の改正についても同様のことが言えます。

なぜなら、いわゆる改憲勢力は憲法改正を声高に叫んでいますが、自民党が公開している憲法草案(日本国憲法改正草案(平成24年4月27日(決定))|自由民主党憲法改正推進本部)を見る限り、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義の基本原理をすべて後退(制限ないし縮小)させる規定ばかりが目に付くからです。

たとえば、現行憲法における日本国の元首は憲法学の多数説的見解では「内閣または内閣総理大臣」と解釈されますが(芦部信喜「憲法(第六版)」47~48頁参照)、自民党の憲法改正案では元首を「天皇」としていますので(自民党改正案第1条参照)、その点で国民主権が後退ないし制限を加えられる余地が生じます(※詳細→憲法を改正すると国民主権が後退してしまう理由)。

また、現行憲法で基本的人権は「公共の福祉」に反する行使のみが制限される余地がありますが(日本国憲法12条参照)、自民党の改正案では「公益及び公の秩序」に反する場合にまでその制限が許されることになりますので、「公益(国の利益)」すなわち政府(つまり政権与党の自民党)の不利になる言論や表現も政府の権限によって自由に制限がかけられることになってしまいます(自民党改正案12条参照)。

憲法9条の改正も、それが自衛隊を明記するものであれ、国防軍を明記するものであれ、9条2項を削除するものであれ、自衛戦争も含めたすべての戦争を放棄した現行憲法から自衛のための戦争を許容する憲法に改正することになる点を考えれば、国家権力に掛けられた制限を緩和する点で「平和主義の後退」といえるでしょう(※詳細は→憲法9条に自衛隊を明記すると平和主義が平和主義でなくなる理由)。

このように自民党が公開している憲法草案は、現在の日本国憲法における国民主権・基本的人権の尊重・平和主義という基本原理(基本原則)のすべてをことごとく否定し、その逆に国民の自由と権利を制限して国家(国益)に忠誠を尽くさせることを意図している点が極めて特徴的です。

しかし、そもそも憲法とは国家権力の権力行使に歯止めをかけるためのものです。

自民党が公開している憲法草案はその逆に国民の権利と自由に歯止めをかけて、国家権力にかけられている歯止めを緩めるものであって、日本国という国を、天皇を中心とした、国益のためなら人権制限も厭わない、自衛のためなら無制限に軍事力を行使できる国に変えるというものですから、その実質は戦前に施行されていた明治憲法(大日本帝国憲法)と変わりません。

つまり憲法改正を積極的に推し進めている改憲勢力は、現行憲法の日本国憲法を破壊して、明治憲法(大日本帝国憲法)で実現されていた戦前・戦中における大日本帝国のような国に日本を変えてしまいたいわけです。

このような国体変更の手法は、前述の(3)で説明したナチスの手法によく似ています。

ナチスがワイマール憲法を破棄してナチズムを確立させたように、今の政府も日本国憲法を破壊して明治憲法に極めて近い自民党憲法を一般化させることで、日本という国を戦前・戦中のような全体主義国家に変えてしまおうとしているように見えてしまいます。

ウ)「不況を深刻化させるアベノミクス」は第一次世界大戦後の経済不況で疲弊したドイツ経済に通じる

では、アベノミクスはどうでしょうか。

先ほども述べたように、政府はアベノミクスの成果を語りますが、金融緩和策で市場に通貨をバラ撒けば通常であればインフレになるはずなのに、大企業が内部留保をため込む一方であることから、一部の大企業や正規の公務員を除いた大多数の国民は賃金上昇の恩恵を受けていないと感じています。

ほとんどの国民は、アベノミクスの成果やデフレ脱却を実感していないのです。

しかも政府はこの秋に消費税を8%から10%に上げると公言していますから、仮に増税が実施されればますます景気は冷え込むでしょう。

このような政府の姿勢は、とても経済不況を脱するためのものではなく、むしろ経済不況を悪化させて、デフレ脱却どころか賃金が上がらない状況で物価だけが上がり続けるスタグフレーションに誘導し、日本経済を破綻させようとしているように見えてしまいます。

つまり、経済不況を悪化させ続けている現在の政府の姿勢は、日本の経済を、ナチスが勃興した当時における第一次世界大戦後の経済不況に疲弊していたドイツの状況に限りなく近づけているようにも見えてしまうのです。

現政権はナチスの手法を模倣して国政を運営しているのではないか

もちろん、常識的に考えれば、政府が意図的に国の経済を破綻させてしまうことなどあり得るはずがないと思えます。

しかし、自民党の公表している憲法改正草案を見る限り、日本国憲法を明治憲法(大日本帝国憲法)に極めて類似する憲法に改正して、日本を80年前の戦争ができる国にしようとしていることは明らかです。

そうであれば、「アベノミクスの失敗」はむしろ政府の方針に有効に作用すると考えることもできます。アベノミクスが失敗して日本経済が危機的状況に陥れば陥るほど、日本の置かれた状況はナチスが勃興した当時の疲弊したドイツの状況に近づくからです。

国の経済不況が当時のドイツに近づけば近づくほど、先ほど述べたように、権力者は経済不況の原因を他国のせいにして国民を戦争に駆り立てることも容易になりますから、戦争を望む権力者にとって経済不況はむしろ歓迎すべきものなのです。

麻生氏はその自身の発言を公式に撤回しましたが、もし仮に「ナチスに学べ」という発想が今も政府の内部で共有されているとすれば、安倍政権がこれまで取ってきた無茶苦茶な政策のすべての筋が通ります。

「アベノミクスの失敗」は第一次世界大戦後の経済危機に直面していたドイツ経済に、「朝鮮学校の無償化差別」は国民の不満の矛先を国内に作り出したスケープゴートに向けるため行われたナチスのユダヤ人迫害政策に、「憲法の改正」はワイマール憲法を破棄してナチズムを確立させたヒトラーの手法に極めて類似しています。

今の政権が基本的人権を制限し国民主権を後退させる国家に日本を変えることを望んでいるとすれば、それは明治憲法で実現されていた全体主義国家に日本を変えたいということです。

そういう全体主義国家に国政を転換するためにナチスの手法を取り入れているとすれば、「失敗」しているかのように見えるアベノミクスは、むしろ「成功」していることが明らかです。

だからこそ、アベノミクスを単に「失敗だった」と切り捨ててしまうのは危険だと言えるのです。