自民党憲法改正案の問題点:第53条|臨時国会の召集が遅れる

憲法尊重擁護義務(憲法第99条)の下に置かれた立場にありながら、憲法の改正に執拗に固執し続ける自民党が公開している憲法改正草案の問題点を一条ずつチェックしていくこのシリーズ。

今回は、国会の臨時会の召集に関して規定した自民党憲法改正草案第53条の問題点について考えてみることにいたしましょう。

臨時会の召集を「20日以内」と義務付けた自民党憲法改正草案の第53条

現行憲法の第53条は国会の臨時会の召集に関する規定ですが、この規定は自民党憲法改正草案でもそのまま引き継がれています。

ただし、自民党改正案では同条後段に召集時期についての文章が付け加えられていますので注意が必要です。

では、具体的にどのような文章が追加されたのか、条文を確認してみましょう。

日本国憲法第53条

内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

自民党憲法改正草案第53条

内閣は、臨時国会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があったときは、要求があった日から二十日以内に臨時国会が召集されなければならない。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

このように、自民党憲法改正草案は後段に「要求があった日から二十日以内に」との文章を追加することで、臨時国会の召集に20日以内という期限を設けてその期間の召集を義務付けています。

では、こうした変更は具体的にどのような問題を生じさせ得るのでしょうか。検討してみましょう。

政府が臨時国会の召集を遅らせたり召集しないための根拠にならないか

このように、自民党憲法改正草案の第53条は臨時国会の召集に「20日以内に」と制限を設けてその期間内の召集を義務付けています。

この点、「20日以内に」との期限を設けたことで、その期間内の臨時会の召集が義務付けられることになったことから内閣が恣意的に20日を超えて臨時国会の召集を遅らせることが出来なくなった点は評価できるのかもしれません。

しかし、こうして「20日以内に」との制限を憲法に明文の規定で設けてしまうと、その規定を根拠に内閣が不当に臨時国会の召集を遅らせたり、または臨時国会そのものを召集しないこともできるようになるため問題があると言えます。

(1)「20日以内」であれば臨時国会の召集を遅らせることが憲法で認められるようになる

まず指摘できる問題は、こうした文章を追加してしまうと「20日以内」であれば内閣が臨時国会の召集を自由に遅らせることができてしまう点です。

現行憲法の第53条では「20日以内に」との文言はありませんから、衆参いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣はその「臨時」に求められる緊急性に応じて遅滞なく臨時国会を召集することが求められます。

もちろん憲法には「いつまでに召集せよ」とは規定されていないのでその召集時期の判断は内閣に委ねられますが、合理的な理由もなく召集を遅らせるのは違憲性を帯びてしまうので、内閣にはその緊急性に応じた召集が義務付けられるわけです。

しかし、自民党憲法改正草案第53条のように「20日以内に」との文言を憲法に規定してしまうと、「20日以内」であれば内閣が自由に召集を遅らせてよいことになってしまいますから、内閣を構成する与党(自民党)が臨時国会の召集に乗り気でなかったり臨時国会を召集して野党に何らかの追及を受けてしまうような不都合がある際には、「20日」のぎりぎりまで召集を引き延ばすことようなこともできてしまいます。

憲法に「20日以内に」と規定されていれば、「20以内に召集すれば憲法違反ではない」という憲法上の根拠ができるので、その規定を利用して内閣が恣意的に臨時会の召集を遅らせることも憲法で認められることになるからです。

たとえば、今の日本では新型コロナウイルスの感染拡大への対策が問題となっていますが、そうした緊急性を要するケースで野党の総議員の4分の1の議員が政府(内閣)に臨時国会の召集を求めるようなことがあったとしても、政府は20日間(3週間)先まで臨時国会の召集を引き延ばすこともできてしまうのです。

しかしウイルスの感染拡大の対処という緊急性を要する事態で20日間(3週間)はあまりにも長すぎます。それでは緊急性を要する事態に対応できなくなってしまいますから「20日以内に」と憲法に規定したことがかえって国民には不利益な作用を及ぼすことになってしまうでしょう

このように、自民党憲法改正草案の第53条はあえて「20日以内に」と規定することで臨時国会の召集を合理的な理由もなく「20日先まで」引き延ばすことを『憲法』で『合憲的に(違憲性を帯びさせないで)』許すことが認められるようになってしまう点で、大きな問題があると言えるのです。

(2)「20日以内」に通常国会の召集が予定されている時は臨時国会を招集しないことが憲法で認められるようになる

また、憲法に「20日以内に」との文言を追加したことで、内閣が臨時国会を「召集しない」選択が憲法で許されることになるのも問題です。

現行憲法の第53条では「20日以内に」との文言はありませんから、衆参いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば内閣は臨時国会を召集しなければならず、それを召集しないことは許されません。

しかし、自民党憲法改正草案の第53条は「20日以内に」との文言を追加していますから、衆参いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があった日から20日以内に通常国会の開催が迫っているようなケースでは、臨時国会を召集しなくてもよくなってしまいます。

たとえば先日、自民党の某議員が2021年度の通常国会を1月18日に召集する見込みだと述べた旨の報道がありましたが、来年1月18日に通常国会が召集されると仮定して、今年の年末に国民の生命に直結する何らかの緊急を要する問題が生じ(たとえば新型コロナウイルスの感染拡大が想定以上に深刻化したようなケースを考えてください)、その対策を国会で早急に決める必要があることから野党が衆参いずれかの議院の総議員の4分の1の議員によって12月29日に臨時国会の召集を内閣に求めたようなケースを想像してください。

このような場合、憲法の臨時会の召集に「20日以内に」の文言がない現行憲法のままであれば、たとえ20日以内に通常国会が召集されるとしても、緊急を要するとの理由から内閣に来年1月18日を待たずに臨時国会の召集を求めることも憲法上は可能と言えます。

憲法には臨時国会の召集に「20日以内に」の文言がないので、内閣は合理的な理由もなく20日先の通常国会の召集まで臨時国会の召集を引き延ばすことで臨時国会の召集をしないという選択はできない(違憲性を帯びてしまう)からです。

しかし、憲法第53条に自民党改正案のような「20日以内に」の文言が規定されてしまうと、「20日以内」の範囲で内閣に召集時期の選択権が憲法で与えられていることになりますから、「20日以内に」通常国会が召集されるこの事例では、来年1月18日の通常国会召集まで臨時国会の召集を引き延ばすことで臨時国会の召集を「しない」という選択肢も憲法で許されることになってしまいます。

つまり憲法に「20日以内に」との文言が追加されたことによって、緊急を要する事態であっても内閣の恣意的な判断で「臨時国会を召集しないこと」が憲法で認められてしまうケースが事実上生じてしまうことになるのです。

もちろん、そうして臨時国会が召集されないことで不利益を受けるのは国民ですから、憲法第53条に「20日以内に」の文言を追加したことは、国民にとっては有益どころが無益であって有害とも言えてしまいます。

このように、自民党改正案第53条は臨時国会の召集について「20日以内に」との文言を加えた点は、一見すると「20日以内」の召集を内閣に義務付けることで国民にとっては利益があるように思えますが、それがかえって国民に不利益を及ぼす結果となりかねない危険を含んでいますので十分な注意が必要でしょう。