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自民党憲法改正案の問題点:第8条|皇室財産の譲渡が無制約に

少なくとも、そうした皇室財産の譲渡等を利用した税金の私物化ができない現行憲法の第8条があるにもかかわらず、それにあえて「法律で定められる場合を除き」との一文を挿入することでそうした危険性が生じるわけですから、そうした危険を招来すること自体が問題であると指摘できます。

そして、先ほど説明したように、憲法8条が皇室の財産の譲渡等に国会の関与を義務付けたのは、明治憲法(大日本帝国憲法)の下で天皇皇族に莫大な財産の保有を許し、それが国民の自由や権利の抑圧に利用された反省があるからなのですから、皇室の財産の譲渡等の規定に国会の関与を義務付けた憲法第8条に「法律で定められる場合を除き」との一文を新たに挿入した自民党改正案は、国民主権や民主主義の観点から問題があると言えるのです。

(2)「国会の議決」が「国会の承認」に変えられたことで、皇室財産の譲渡等に関する実質的決定権が「皇室」に変更されることになる

また、自民党改正案第8条は、皇族の財産の譲渡等に関する実質的な決定権を「国会」から「皇室」に変更している点も問題です。

現行憲法上は皇室の財産の譲渡等を認めるか否かの実質的決定権が「国会」にあるにもかかわらず、自民党改正案はその実質的決定権をその財産の譲渡等を行う「皇室」に与えてしまっている点です。

現行憲法の第8条は皇室の財産の譲渡等に「国会の議決」を必要としていますから、その財産の譲渡等を認めるか否かを決定するのは「国会」です。

皇室が財産の譲渡等を行いたいと考える場合には、その譲渡等する財産とその相手方を特定してその詳細を国会に提示し、国会の議論と議決を経てそれが過半数以上の賛成で可決されないと、その財産の譲渡等は法的に有効とはならないわけです。

しかし、「国会の承認」という言葉は、たとえば現行憲法では条約の承認に関する憲法第61条でも使われていますが、学説上この61条の「国会の承認」は「国内法的かつ国際法的に、条約が有効に成立するための要件」であると解されていて(※前掲「憲法」303~304頁)、その意味では「条約締結は内閣との協働行為」だと解釈されている一方、政府が条約を締結した後に国会が承認をしなかった場合(事後に国会が条約の承認を否決した場合)のその条約の効力については有効説・無効説など学説上解釈に争いがあります。

政府の締結した条約に「国会の承認」が必要と規定されている現行憲法61条では、その実質的決定権が政府にあるのか国会にあるのか、解釈に争いが生じている部分があるわけです。

この論点はこの記事のテーマから脱線するのでこれ以上深く言及はしませんが、「国会の承認」と規定した場合は、その実質的決定権の有無に違いが生じてしまいます。

そうなると、自民党改正案は皇室の財産の譲渡等についてあえて「国会の承認」と変えていますから、仮に自民党改正案第8条が国民投票を通過すれば、皇室の財産の譲渡等の実質的決定権が「皇室」にあるとする解釈が正当性を帯びる余地も生じてしまいます。

「国会の議決」と規定されている現行憲法では皇室財産の譲渡等に関する実質的決定権が「国会」にあるのは明らかで解釈に争いが生じる余地はなかったのに、「国会の承認」と変更することで解釈に争いを生じさせることができるわけです。

しかも自民党改正案第8条は、条文の末尾を現行憲法8条の「国会の議決に基づかなければならない」から「国会の承認を経なければならない」と変更していますから、「基づく」という言葉がその前に置かれた要素に基礎づけられる反面、「経る」という言葉が前に置かれた要素を形式的に通過すればよいという意味を持つ以上、皇室財産の譲渡等の実質的決定権を「皇室」にあるとする解釈が文理的に正当性を持つことも十分に考えられてしまいます。

仮に自民党改正案第8条が国民投票を通過した後に政府がこのような解釈を採用すれば、皇室財産の譲渡等に関する実質的決定権は「国会」から「皇室」に変更されることになりますから、その憲法改正以降の「皇室」は「国会」の関与を受けることなく自由に財産の譲渡等ができるようになるのです。

しかし、そうした皇室への権能の解放は、皇室の財政基盤を強化することにつながり、それは地位や権能を強化することになりますから、相対的に主権者である国民の主権を後退させることにつながります。

このように、皇室の財産の譲渡等の国会の関与に関する「国会の議決」の文言を「国会の承認」に変えてしまう自民党憲法改正草案第8条は、皇室の財産の譲渡等の実質的決定権を皇室に与える結果、皇室やそこから譲渡等を受ける私人や団体に財産を集中させることで不当な支配力を惹起させる危険を生じさせますから、国民主権や民主主義の観点から問題があると言えるのです。

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皇室の財産とその処分を自由にさせその権能を強化する自民党憲法改正草案は明治憲法(大日本帝国憲法)への逆戻り

以上で説明したように、皇族の財産の譲渡等に国会の関与を義務付けた条文に「法律で定められる場合を除き」の一文を挿入する自民党憲法改正草案第8条は、国会の関与を経ずに皇室財産の譲渡等が認められる余地を生じさせることから、皇室への財産集中を招き、天皇も含めた皇室の地位や権能を強化することにつながる結果、相対的に主権者である国民の主権を後退させることになりますので、国民主権や民主主義の観点から問題があると言えます。

また、自民党憲法改正草案第8条は皇族における財産の譲渡等に国会の関与を介在させる現行憲法第8条の「国会の議決」の部分を「国会の承認」に変更していますが、これは皇室の財産の譲渡等に関する実質的決定権を「国会」から「皇族」に変更するものとなり、皇族への財産の集中やその財産が特定の個人ないし団体に流れることでその関係性を利用した不当な支配力を形成することに利用される危険を生じさせる点で、国民主権や民主主義の観点から問題があると言えます。

このように、自民党憲法改正草案第8条は、国民主権や民主主義の観点から重大な問題を惹起させるものであり、明治憲法(大日本帝国憲法)で生じた様々な失敗を繰り返す危険性を包含しています。

もちろん、自民党がそうした皇室財産の不当な利用や支配力の掌握を目的としてこうした憲法草案を作成したのか、それはわかりません。

しかし、少なくとも以上で説明したような国民主権や民主主義の観点から大きな問題を生じさせることは間違いないのですから、我々国民はその危険性を十分に認識したうえで自民党の憲法改正議論に対する賛否を判断しなければならないと言えます。