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自民党憲法改正案の問題点:第100条|憲法の改正をよりお手軽に

憲法改正に執拗に固執し続ける自民党が公開している憲法改正草案の問題点を一条ずつチェックしていくこのシリーズ。

今回は、憲法の改正手続きについて規定した自民党憲法改正草案第100条の問題点を考えてみることにいたしましょう。

憲法改正の要件を大幅に緩めた自民党憲法改正草案第100条

現行憲法の第96条は憲法の改正手続きに関する条文ですが、自民党憲法改正草案ではこの条文を第100条に移動して規定しています。

ただし、その文章が大きく変更されているため注意が必要です。では、具体的にどのような変更が加えられているのでしょうか。条文は次のようになっています。

日本国憲法第96条

第1項 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際に行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
第2項 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

自民党憲法改正草案第100条

第1項 この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれ総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、法律の定めるところにより行われる国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。
第2項 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、直ちに家の法改正を公布する。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

このように、自民党憲法改正草案第100条は現行憲法第96条の規定にいくつかの変更を加えていますが、その中でも代表的なのが憲法改正に関する国会の発議(自民党案では”議決”)要件について、現行憲法が「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」としている部分を「両議院のそれぞれ総議員の過半数の賛成」としている部分、また憲法改正に係る国民投票の要件について現行憲法が単に「過半数の賛成」としている部分を「有効投票の過半数」としている部分の2か所です。

では、こうした変更は具体的にどのような問題を生じさせるのでしょうか。検討してみましょう。

自民党憲法改正草案第100条から惹起される2つの問題点

前述したように、自民党憲法改正草案第100条は2つの点で大きな変更を加えていますので、その変更が具体的にどのような問題を生じさせるのか、以下それぞれ別に検討していきます。

(1)国会の発議要件が緩められることで憲法改正の発議が濫発される危険性

まず最初に、現行憲法が「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」としている部分を自民党案が「両議院のそれぞれ総議員の過半数の賛成」と変えている部分を検討しますが、結論から言えば、この規定は憲法改正に係る国会の発議要件を大幅に緩和させている点で問題があると言えます。

なぜなら、憲法は国家権力の権力行使に歯止めを掛けるためのものであるにもかかわらず、その改正に係る国会の発議要件を緩和させてしまえば、憲法によって縛られる側の立法府が憲法改正の発議を濫発させることで、憲法改正案がむやみやたらに国民投票に掛けられてしまう危険性があるからです。

そもそも現行憲法が国会による憲法改正の発議に「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」と厳格な要件を掛けているのは、憲法が国家権力の権力行使に歯止めを掛けるためのものであるからに他なりません。

人は社会契約を結んで国家を形成し一人一人が本来的に持つ権限(立法権・行政権・司法権のいわゆる三権)を国家に移譲しますが、国家権力はその国民から移譲を受けた権限を利用して立法府を組織し、その立法府の権限によって法律を制定して国民の権利を制限したり義務を課すことができます。

しかし、国家権力がいったん暴走すれば、権力者は立法府の権限を利用して法律を制定することでいくらでも国民の権利を制限し義務を課すことができますから、国民は国家権力が移譲を受けた権限を濫用しないように歯止めを掛けておく必要があります。その”歯どめ”が憲法です。

国民が、国家に権限を委譲する際に「この範囲でだけ権限を委譲しますよ」「この範囲を逸脱して立法権を行使してはダメですよ」という決まりを憲法という法典に記録し、その憲法に記録(規定)された範囲に限って、国民が保有する権限を国家権力に移譲するわけです。

このような思想が憲法の根底にあるので憲法は「国家権力の権力行使に歯止めをかけるためのもの」と言われているわけです(※詳細は→憲法は何を目的として改正されるべきなのか)。

そうであれば、その国家権力に掛けられた歯どめは容易に緩められるものであってはなりません。歯どめが容易に緩められるなら、憲法によって縛られる立場にある国家権力(立法府)が憲法改正の発議を濫発して改正案を国民投票かけまくり、憲法によってかけられた歯どめを緩める危険があるからです。

そのため現行憲法は「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」と厳格な要件を課して、国会がむやみやたらに改正の発議をしないよう、第96条で手続的に歯止めを掛けているのです。

この点、「最終的には国民投票で決めるのだから国会が憲法改正の発議を濫発しても問題ないではないか」との意見もあるかもしれません。

しかし、国民投票に代表される直接民主制は、一時的な大衆迎合的世論の熱狂や軽率な議論によって国民に不利な方向で承認されてしまうこともあるものです(※たとえば古代ギリシャのアテネ民主制で生じた衆愚政治の失敗)。

そのため現行憲法は、国民から選ばれた議員が専門的な資料や意見に基づいて冷静に客観的に議論することが期待できる代表民主制(間接民主制)を採用していて、憲法の改正手続きにおいても、その発議に関しては国会での発議を要件にしておくことで代表民主制(間接民主制)に委ねているわけです。

そうした趣旨を考えれば、「最終的には国民投票で決めるのだから国会が憲法改正の発議を濫発しても問題ないではないか」との意見が暴論以外の何物でもないのが分かるでしょう。

国民投票のような直接民主制は、間接民主制をとる国会で十分な議論と検証がなされたうえで、その結果を国民に誠実に提示できてこそ有効に機能するものです。

自民党案のように、「両議院のそれぞれ総議員の過半数の賛成」などとその決議要件を緩和させてしまえば、国会で多数議席を確保した政党が十分な議論と検証をしないまま憲法改正案を発議することも可能となってしまいますが、それでは議論も検証も不十分な間接民主制で議決された改正案が国民投票に掛けられてしまう恐れが生じてしまいます。

仮にそのようなことが現実に起きれば、一時的な大衆迎合的世論の熱狂や軽率な議論など直接民主制の欠点が顕在化してしまうことで国民の意思決定が歪められ、国民が気付かぬままに国民に不利益な憲法改正が実現されてしまう危険が生じます。

そうした危険性を考えれば、自民党憲法改正草案第100条のように憲法改正の国会発議の要件を緩めることは、到底許されるものではないと言えるのです。

(2)国民投票が緩められることで少数者の賛成で憲法が変えられる危険性

次に、自民党憲法改正草案第100条が憲法改正に係る国民投票の要件について、現行憲法が単に「過半数の賛成」としている部分を「有効投票の過半数」に変更している部分を検討しますが、結論から言えば、こうした変更は国民に害悪しか及ぼしません。

なぜなら、こうした変更が加えられれば、少数の賛成者によって憲法が変えられてしまう危険性が増大するからです。

現行憲法の第96条は憲法改正に国民投票(または国会の定める選挙の際行われる投票)を介在させていますが、先ほど挙げた条文を見てもわかるようにその決議要件は単に「その過半数の賛成」としか規定されていませんので、その「過半数」が「国民の過半数」なのか「有権者の過半数」なのか、あるいは「投票者の過半数」なのか「有効投票の過半数」なのかと言った点は定かではありません。

そのため、現行憲法において国民投票を実施する場合には、その決議要件の「過半数の賛成」を具体的に「何の過半数」にするか法律によって定める必要がありますので、現行法制ではいわゆる国民投票法という法律で定められることになっています。

その国民投票法で憲法第96条における「過半数」を具体的に「何の過半数」にするかは未だ議論が定まっていない部分がありますので、ここではこれ以上深入りしませんが(※この点の詳細は→国民投票の最低投票率導入で「民意のパラドックス」は生じるか)、現行憲法上は「法律」でその具体的な決議要件を定めることにしているわけです。

ところが、自民党憲法改正草案第100条はその決議要件を”憲法”の規定の中で「有効投票の過半数」と定めてしまっています。

しかし、こうして国民投票の決議要件を”憲法”に規定してしまうと、国民投票は「有効投票の過半数」で決められなければなりませんから、少数者の賛成で国民投票が承認されてしまう危険性が生じてしまいます。

たとえば、日本の総人口が1億2000万人、国民投票に投票できる有権者が1億人いると仮定すると、国民投票は「有効投票の過半数」の賛成があれば成立しますから、仮に投票率が20%でその投票すべてが有効投票であったとすれば、1000万1票の賛成票で国民投票が成立してしまうことになるのです。

ですがそれでは、わずか10,000,001人の賛成で1億2千万人の自由や権利を保障する憲法を改正してしまうということですから、それは少数者の賛成で憲法を改正することを容認することになり、到底民主主義的とは言えないでしょう。民主主義の大原則は多数決原理にあるからです。

この点、『別途法律を制定しその法律(例えば国民投票法)に最低投票率を導入すれば、少数者の賛成で憲法が改正されてしまう不都合を回避できるではないか』との意見もあるかも知れません (※最低投票率が何か分からない人は→国民投票の最低投票率導入で「民意のパラドックス」は生じるか) 。

ですが、自民党憲法改正案のように「憲法」に「有効投票数の過半数」との文章を規定してしまうと、その憲法で規定された「有効投票の過半数」に制限を加える法律が違憲性を帯びてしまうとの解釈も成り立ってしまいますから、仮にそうした解釈を政府が採るようになれば、法律で最低投票率を設けることが憲法違反になるという理屈で、結局は改正案第100条に規定された通りに有効投票で決さなくてはならず、少数決の問題を解消することはできなくなる可能性も生じてしまいます。

このように、自民党憲法改正草案第100条は憲法改正にかかる国民投票の要件を大幅に緩和させていますが、こうした変更は民主主義の多数決原理を歪めて少数者の賛成で憲法改正を実現することを許容することになるため大きな危険を伴います。

少数者の賛成で憲法を改正することを認めてよいのか。国民は冷静に判断することが必要でしょう。

自民党憲法改正草案第100条は国家権力に掛けた”歯止め”を大きく緩めるもので危険すぎる

このように、自民党憲法改正草案第100条は現行憲法の改正手続きに掛けられた要件を大きく緩めることで憲法の改正が容易になるようにしていますが、国家権力の権力行使に歯止めを掛けるための憲法の改正手続を容易にすることは、その国家権力に掛けられた”歯どめ”が簡単に緩められることに他なりません。

憲法改正の要件を緩めることは、立憲主義の保障を後退させ民主主義の具現化をも困難にさせますから、こうした改正は極めて危険なものだと言わざるを得ないでしょう。

日本国憲法が硬性憲法であることについての誤解について

なお、以上のような憲法改正手続の要件を緩めることに否定的な意見に対しては、「日本国憲法の改正要件は諸外国に比べて厳しすぎるから要件を緩和すべきだ」とか、「諸外国は○回も憲法を改正しているのに日本が一度も改正していないのは日本の憲法が改正要件を厳しくしすぎているからだ」との反対意見が必ずと言ってよいほど出されますが、本当にそうでしょうか。

ア)「日本国憲法は改正要件が厳しすぎる」は本当か

たとえば、平成15年4月3日の衆議院憲法調査会において参考意見を述べた北海道大学名誉教授の高見勝利氏によると、過去にアメリカの有名な学術雑誌が公表した世界32か国の憲法の硬性度を調査したデータによれば、先の大戦後に何度か憲法を改正しているアメリカ(※詳細は→アメリカは6回も憲法改正してるから日本も…が詭弁である理由)がその硬性度が一番高く、「ほぼ一年に二回ぐらいの改正を重ねて」いるスイスがそれに続き2番目で、日本国憲法の硬性度は第9番目に過ぎなかったそうです。

(中略) 昨年の十一月に公表されました本調査会の中間報告の中に、憲法九十六条に関しまして、日本国憲法の改正のハードルというのは世界の中でも一番高いのではないか、こういう意見が表明されておりますのを読みました。しかしながら、今回試みました六十余りの憲法規定の、これは簡易調査でございますけれども、その中のごく大ざっぱな全くの印象からいたしますと、憲法九十六条の国際比較の中で、条文だけで比較して見た場合でございましたが、その硬性度は、もちろん高いレベルにあるということは言えるわけでございますけれども、それが格段に高いあるいは最高レベルにあるということまでは言えないということでございます。
 十年ほど前のことでございますけれども、あるアメリカの有名な学術雑誌に、世界の五大陸というか東西南北、世界じゅうということでありますけれども、三十二カ国を選びまして、憲法改正規定の硬性度を調査したデータが公表されております。
 その調査結果によりますと、三十二カ国中で最も硬性度が高いのは合衆国憲法の改正規定、スイスがそれに続きますが、その順位で申しますと、日本は第九位に置かれておりました。そして、ドイツに至っては、その三十二カ国中二十一位にランクされておりました。このことは、ドイツの改正手続の多さというのは、主として日本国憲法とは違う基本法の性格、そういう法律的な性格に起因するものであるし、ほかにもいろいろ事情はあるかと思いますけれども、そういったことが言えるということでございます。
 それからまた、アメリカに次ぐ硬性国とされているスイスでございますけれども、これは資料の最後、四十ページに諸外国の憲法改正の回数ということで一覧表をつけておきましたけれども、スイスの場合は、全面改正してからでも、ほぼ一年に二回ぐらいの改正を重ねております。これは、スイスに特有の事情によるものでありまして、憲法改正規定の単なる形式的なハードルの高低だけを見て、一国の憲法の改正の難易度あるいはその頻度を論ずるというのは、やや問題があるのかなということを考えた次第でございます。
 以上であります。御清聴ありがとうございました。(拍手)

※出典:第156回国会 憲法調査会最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会 第3号(平成15年4月3日(木曜日))|衆議院 より引用、※参考→徹底批判 自民党新憲法草案|自由法曹団意見書 19頁

こうした調査結果を見れば、「日本国憲法の改正要件は諸外国に比べて厳しすぎるから要件を緩和すべきだ」とか、「諸外国は○回も憲法を改正しているのに日本が一度も改正していないのは日本の憲法が改正要件を厳しくしすぎているからだ」 といった意見が妥当性を欠くものであることが分かります。

硬性度が日本よりはるかに高いとされているアメリカやスイスで戦後複数回の憲法改正が行われていることに鑑みれば、たとえ硬性憲法であっても国民が必要と判断すれば改正するのであって、憲法が硬性か否かの違いは改正の難易度に直結するものではないからです。

「日本国憲法は他国と比較して改正要件が厳しすぎる」とか「改正要件が厳しすぎるから改正できないんだ」 といった意見はよく聞かれますが、過去に日本で憲法が改正されなかったのは、日本国憲法が硬性憲法であることが原因ではなく、単にこれまで憲法改正の必要性を国民が感じなかったことに尽きると言えるのではないでしょうか。

イ)「日本国憲法の改正要件が厳しすぎるのはGHQが改正できないように押し付けたからだ」は本当か

また、「日本国憲法の改正要件が厳しいのはGHQが改正できないように押し付けたからだ」との意見も聞かれますが、戦後の占領下でGHQが日本政府(松本委員会)に提示したいわゆるGHQ草案では、議会を一院制をすることとされていて、それを日本側の強い希望で衆議院と参議院の二院制に変更したために(※参考→日本国憲法が制定されるまでの過程とその概要)憲法改正手続きにおける国会の発議要件が現行憲法第96条のごとく「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し…」とされた経緯がありますから、そもそも「一つの議院の総議員の賛成」で発議できるとされていたGHQ案の発議要件を、「衆参両議院の総議員の賛成」とさらに厳しく変更したのはほかならぬ日本政府(あるいは帝国議会)の側なので「日本国憲法の改正要件が厳しいのはGHQが押し付けたからだ」 との意見は明らかな事実誤認と言えます。

なお、この点は、前に紹介した北大名誉教授の高見氏が憲法調査会で詳しく述べられていますので以下その部分を引用しておきます。

(中略) 日本側の強い要請で、国会の構成が二院制、両院制になりましたので、その結果、国会の発議が、衆参両院でおのおの総議員の三分の二以上の特別多数の賛成を要する、こういう形になりました。そのために、一院制を採用していた総司令部案と比べまして、国会による憲法改正の発議が相当に厳しくなった、こういうことでございます。(後略)

※出典:第156回国会 憲法調査会最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会 第3号(平成15年4月3日(木曜日))|衆議院 より引用、※参考→徹底批判 自民党新憲法草案|自由法曹団意見書 19頁

ちなみに、この憲法調査会における高見氏の参考意見は諸外国の憲法の改正手続きや日本国憲法の成立過程などわかりやすい解説がなされていますので、衆議院のサイトで公開されている議事録を一読することをお勧めします。

ウ)憲法改正を推し進める前に、日本国憲法の制定過程や諸外国の憲法の実情を真摯に学ぶ必要があるのではないか

このように、自民党憲法改正草案を積極的に推し進める人の中には、日本国憲法の制定過程や諸外国の憲法改正手続きの実態を捻じ曲げて自民党案を正当化する傾向がありますので、そうした意見には十分に注意することが必要です。