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自民党憲法改正案の問題点:第21条|表現の不自由/結社の不自由

憲法改正に執拗に固執し続ける自民党が公開している憲法改正草案の問題点を一条ずつチェックするこのシリーズ。

今回は、「表現の自由」について規定した自民党憲法改正案第21条の問題点を考えてみることにいたしましょう。

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「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動や結社」を禁止した自民党憲法改正草案第21条2項

自民党憲法改正草案の第21条は「評点の自由」に関する規定ですが、これは現行憲法の第21条にも同様の規定が置かれていますので、現行憲法第21条の「表現の自由」に関する規定が自民党案第21条にそのまま移動した形になっています。

もっとも、自民党案では現行憲法の第2項が第3項に配置され、その代わり第2項に新たな規定が設けられましたので、その第2項の部分で解釈に変更が生じることになります。

では、自民党憲法改正案の第21条は具体的にどのように変えられたのでしょうか。まず条文を確認してみましょう。

日本国憲法第21条

第1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

第2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

自民党憲法改正案第21条

第1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。

第2項 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

第3項 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

1項と3項にも細かな違いはありますが、自民党改正案では第2項で「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」と「公益及び公の秩序を害することを目的とした結社」の二つを禁止した点が大きく異なります。

では、この新たに挿入された第2項の規定は具体的にどのような問題を生じさせるのでしょうか。検討してみます。

「公益及び公の秩序を害することを目的」とする活動・結社が禁じられるなら、自民党に反する表現活動・結社の全てが禁止されることになる

上に挙げたように、自民党が公表している憲法改正草案の第21条2項は

前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

と新たな規定を挿入しています。

しかし、こうした規定が最高法規である憲法に規定されてしまえば、結果として国家権力の思惑次第ですべての表現活動や結社が禁止されることになりかねません。

なぜなら、”公益及び公の秩序”は「自民党の利益」と「自民党の秩序」の言い換えだからです。

(1)「公益及び公の秩序」は「自民党の利益」と「自民党の秩序」の言い換え

自民党改正案第21条2項は「公益及び公の秩序を害することを目的」とした表現活動や結社を禁止していますので、まずその「公益及び公の秩序」が何を指すのかを考えなければなりません。

では、その「公益」や「公の秩序」とは一体何なのでしょうか。

この点、「公益」とは「国益」の言い換えであり、その「国」の運営をゆだねられているのは「政府」であってその「政府」を形成するのは多数議決を確保した「自民党」ですから、「公益」は「自民党の利益」と同義と言えます。

また、「公の秩序」は「現在の一般社会で形成される秩序」という意味になりますが、「現在の一般社会」を形成しているのは多数派(マジョリティー)であって、現在の多数派(マジョリティー)は自民党支持者ということになりますので、「公の秩序」も「自民党の秩序」と同義と言えます。

そうなると、「公益及び公の秩序を害することを目的とした」との文章は「自民党の利益や秩序を害することを目的とした」という文章に置き換えることができますから、つまるところ改正案第21条2項は「自民党の利益や秩序を害することを目的とした活動や結社は認められない」ということを述べたものとなってしまいます(※この点の詳細は→自民党憲法改正案の問題点:第12条|人権保障に責務を強要)。

つまり自民党は、自民党の利益や自民党が形作る秩序を「害する目的がある」表現活動や結社に法的な違法性を帯びさせ、そうした活動や結社の全てを法的に制限できるようにするために、この新たな文章を21条2項に付け加えたわけです。

(2)「公益及び公の秩序を害することを目的とした」か否か判断するのは政府(国家権力)であって政権与党の自民党

ところで、このように自民党改正案第21条2項は「公益及び公の秩序を害することを目的とした」表現活動や結社を禁止していますが、ではその表現活動や結社が「公益及び公の秩序を害することを目的とし」ているかいないか誰が判断するかと言うと、それはもちろん政府です。

そしてその政府は誰が組織するかというと、それはもちろん先ほど述べたように政権与党として多数議席を確保した自民党です。

つまり自民党は、「自民党の利益」や「自民党の秩序」を害することを目的とした表現活動や結社を思うがままに取り締まるために、この第21条2項の規定を新たに付け加えたと言えるのです。

(3)自民党改正案第21条2項が国民投票を通過すれば、政府を批判する表現行為やデモ、街宣、署名活動等のすべてが禁止されることになる

このように、自民党憲法改正案第21条2項は、「自民党の利益」や「自民党のつくる秩序」を害することを目的とした表現活動や結社を法的に排除するための規定です。

では、こうした規定が国民投票を通過した場合、具体的にどのような問題を生じさせるのでしょうか。

ア)政府(自民党)の方針に反する言論等が禁止される

この点、まず指摘できるのが、政府や自民党を批判する言論や表現行為がすべて「公益及び公の秩序を害することを目的とした」表現活動として制限されるという点です。

先ほど説明したように「公益及び公の秩序」は「自民党の利益」と「自民党の秩序」に他なりませんから、改正案第21条2項が国民投票を通過すれば、政府や自民党を批判する新聞や雑誌の記事だけでなく、ニュースやワイドショーにおける専門家のコメントはもちろん、SNSなどの”つぶやき”やブログの記事などもすべて、政府(自民党)の判断で差し止めや放送・配信の停止あるいは削除ができるようになってしまうでしょう。

もちろん、この私のサイトも自民党の改正案を批判し続けていますので、自民党が望めばすぐにサーバ会社に通知して削除させることも法的に可能になるわけです(まあ、そもそもアクセス数が少ないので相手にされない可能性が高いですが)。

そうなれば、テレビニュースや新聞、ネットメディアは政府(自民党)の方針を称賛する情報だけであふれることになりますから、メディアから正確な情報を入手できない一般市民は政府(自民党)が垂れ流す情報だけにしか触れることができなくなってしまいます。

もちろんそうなれば、国民の政治的意思決定は歪められますので、もはや民主主義は成り立たなくなってしまうでしょう。

イ)政府(自民党)を批判する出版や芸術等が禁止される

これは出版や芸術、学問研究の発表などの分野でも同じです。

政府(自民党)の方針に反対する表現活動はすべて「公益及び公の秩序を害することを目的とした」ものとして制限されますから、たとえそれが芸術や学問的真理に基づくものであったとしても、そのすべての表現行為、研究発表行為は「公益及び公の秩序」の名の下に、禁止されることになるでしょう。

たとえば昨年、「新聞記者」という映画が公開され話題を呼びましたが、そうした映画も上映が禁止されるでしょうし、森友学園の問題や原発問題などのルポルタージュなどの出版も禁止することができるようになるわけです。

昨今は日本学術会議の任命の件で菅首相の違法性が指摘されていますが、法学者がそうした違法性を指摘する論文を発表することも「公益及び公の秩序を害する」という理由で禁じられますから、この改正案が国民投票を通過すれば、学術会議の問題のような行政の違法な措置は一切批判できなくなってしまうのです。

また、そもそも政府(自民党)の方針に反対する研究の発表自体出来なくなりますから、学問研究も政府(自民党)の方針に合致するものだけが許されて、政府(自民党)の方針に反対する研究はすべて禁止されるようになります。

つまり、報道や芸術だけでなく学問も含めたすべての活動が、政府(自民党)の方針に迎合するものしか許されなくなってしまうのです。

ウ)政府(自民党)を批判する集会・デモ等が禁止される

自民党の憲法改正案第21条2項が国民投票を通過すれば、政府(自民党)を批判する集会やデモなどもすべて「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」となりますので、当然それは権力によって禁止されることになります。

国会前や官邸前などでのデモだけでなく、ハンガーストライキなどの抗議活動も、それが政府(自民党)の方針に反するものである限り「公益及び公の秩序」の名の下に、排除されるようになるでしょう。

政府や自民党の批判につながる署名活動やビラ配りなども「公益及び公の秩序を害する目的」と判断できることになりますから、自民党が望めばそうした署名やビラ配りなどもすべて禁止されてしまうのです。

野党の集会も、政府(自民党)の方針に批判的なものは21条2項の「公益及び公の秩序」の名の下に制限され得ることになりますから、選挙活動なども制限される結果、今のような自由な選挙は全く期待できなくなってしまうかもしれません。

エ)政府(自民党)の方針に反対する街宣等が禁止される

政府(自民党)の方針に批判的な街宣等も当然「公益及び公の秩序を害する目的とした活動」として制限されることになります。

たとえば先日、大阪で大阪市廃止の是非を問う住民投票が行われましたが、その際は東京からある国政政党の党首が大阪の街のあちこちで大阪市廃止によって生じ得る問題点を訴えたことが少なからぬ世論に影響を与えたと話題になりました。

この件は規模の小さな政党であっても街宣で無党派層に呼びかけることで市民の投票活動に少なからぬ影響を与えうることを証明しましたので、街宣は組織票を持たない少数政党にとっては無党派層の支持を獲得するうえで不可欠な活動と言えます。

しかし仮に自民党改正案第21条2項が国民投票を通過すれば、こうした街宣が自民党の政策に批判的な内容を含む場合には、「公益及び公の秩序を害する」との理由いくらでも制限できるようになってしまいます。

仮にそうなれば、もはや自民党に迎合する政党以外はまともな街宣はできなくなりますから、自民党がどんなに滅茶苦茶な政治をしたとしても、野党が無党派層の支持を得て政権を奪取することはもはや不可能となってしまうでしょう。

オ)自民党に反対する政党が禁止される

自民党改正案第21条2項が国民投票を通過すれば、自民党の方針に反対する政党の結党自体も制限されるかもしれません。

新たに結党しようとする政党のマニュフェストに自民党の政策と相反するものがある場合には「公益及び公の秩序を害する目的とした結社」として憲法上の違法性を帯びることになり、政府(自民党)の判断でいくらでも排除できるようになるからです。

仮にそうなれば、それはもう先の戦時中に生まれた大政翼賛会と同じでしょう。

自民党憲法改正案第21条2項は全体主義を可能にする

以上で説明したように、自民党憲法改正案第21条2項は「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」とする新たな条文を表現の自由の規定に盛り込みましたが、これは自民党の方針に批判的な表現活動や結社の全てを排除できる条文です。

こうした規定が仮に国民投票を通過すれば、国民の表現行為や集会・結社はすべて自民党の方針に合致するものだけが許されるようになり、自民党の方針に批判的なものはすべて排除されるようになるでしょう。

そうなれば、それはすべての国民の意思が戦争へと駆り立てられた先の戦時中の日本と同じです。

先の戦時中は政府に批判的な表現はすべて規制され政府の方針に沿う報道や表現行為だけが許されました。議会の政治的意思決定は大政翼賛会の下で統一され国全体が全体主義的方向に作用してそれが敗戦まで突き進んだのです。

そうした危険な条文を付け加える必要がどこにあるのか、冷静に考える必要があるでしょう。

憲法は国家権力に「認められない」ものを規定するためのもの

なお、最後に自民党改正案第21条2項が根本的に間違えている点を指摘してこのページを終わりにします。

自民党案の第21条2項の何が根本的に間違っているかと言うと、それは「認められない」と規定した部分です。

表現の自由や結社の自由は、主権者である国民が積極的な表現活動等に参加することで積極的に政治に関わり、民主主義を実現していくために不可欠な基本的人権なのですから、それは絶対的に保障されなければならないものです。そしてその国民の人権を国家権力に守らせるために制定されたのが「憲法」です。

人は複数が集まって社会を形成しますが、その社会を形成する際に自分が本来的に持っている権限を社会に移譲します。その権限を委譲する際に互いに交わす契約がいわゆる「社会契約」であってそれによって形成されるのが国民国家という国家概念です。

こうして形成される国民国家は国民から移譲を受けた権限を利用して立法府を組織し自由に法律を作ることができますが、国家がひとたび暴走すればその制定する法律の支配力によって国民の自由や権利を自由に制限できるため、国民は社会契約を結ぶ際にあらかじめ「歯どめ」を掛けておこうとします。その手段が「憲法」です。

国民が社会契約を結ぶ際に「この範囲でしか権限を委譲しませんよ」「この範囲を超えて法律を作っちゃダメですよ」という決まりを憲法と言う法典に記録し、その記録(規定)された範囲で自分が本来的に持っている権限を国家に委譲するわけです。

こうした思想が「憲法」にあるからこそ憲法は「国家権力の権力行使に歯止めを掛けるためのもの」と言えるのですが、そうであれば、その「歯どめ」を掛けた憲法に「認められない」などと規定することは許されません。

「認められない」と規定してしまえば、憲法で人権を保障した意味がなくなってしまうからです。

憲法21条は表現の自由や結社の自由など民主主義の実現に不可欠な基本的人権を国家権力の権力行使から守るために、国家権力にかけた「歯どめ」を掛けたものであるにもかかわらず、自民党改正案第21条2項は「認められない」と規定して、その逆に国民の人権保障に「歯どめ」を掛けてしまっています。

憲法は、国家権力に対して「認められない」権力行使を規定するものであって、国民に対して「認められない」人権保障を規定するものではないのです。

自民党改正案第21条2項の様な規定では、国家権力の権力行使に「歯どめ」を掛けた憲法の意味が根本から覆されてしまったのと同じなのです。

憲法が「国家権力の権力行使に歯止めを掛けるためのもの」という本質を忘れ、その逆に憲法を「国民の権利保障に歯止めを掛けるためのもの」にして国民から自由と権利を奪い取ろうとしている政党の危うさに、すべての国民が一日も早く気付くことが望まれます。