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自民党憲法改正案の問題点:第63条|首相と大臣の追及が不能に

憲法尊重擁護義務(憲法第99条)を無視して憲法改正に執拗に固執し続ける自民党が公開している憲法改正草案の問題点を一条ずつチェックしていくこのシリーズ。

今回は、内閣総理大臣と国務大臣の国会出席について規定した自民党憲法改正草案第63条の問題点を考えてみることにいたしましょう。

「職務の遂行上特に必要がある場合」の内閣総理大臣と国務大臣の国会への出席義務を撤廃した自民党憲法改正草案第63条

現行憲法の第63条は内閣総理大臣とその他の国務大臣の議会(衆議院と参議院)への出席と議会で発言する権利、また議会から出席を求められた場合の出席義務を規定していますが、この規定は自民党憲法改正草案第63条でも同様に引き継がれています。

ただし、自民党憲法改正草案第63条は内閣総理大臣とその他の国務大臣が議会から説明を求められた場合の出席義務について大きく変更がなされていますので注意が必要です。

では、具体的にどのような変更が加えられているのか、現行憲法と自民党憲法改正草案第63条の双方を比較して確認してみましょう。

日本国憲法第63条

内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

自民党憲法改正草案第63条

第1項 内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、議案について発言するため両議院に出席することができる。
第2項 内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、答弁又は説明のため議員から出席を求められたときは、出席しなければならない。ただし、職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

このように自民党憲法改正草案第63条は現行憲法第63条を第1項と2項に分けたうえで、第2項にただし書きを加えて「職務の遂行上特に必要がある場合」に内閣総理大臣とその他の国務大臣の国会出席義務を免除しています。

では、こうした変更を加えた自民党憲法改正草案第63条は具体的にどのような問題を生じさせるのでしょうか。検討してみましょう。

内閣総理大臣とその他の国務大臣を国会で追及することが不可能になってしまう

この点、結論から言えば、こうしたただし書きを設けて内閣総理大臣とその他の国務大臣の国会出席義務を軽減することは、内閣総理大臣とその他の国務大臣による国会での説明責任を免除するに等しく極めて害悪が大きいと言えます。

なぜなら、「職務の遂行上特に必要がある場合」に国会への出席が免除されると言うのなら、内閣総理大臣とその他の国務大臣は、何らかの不都合な説明を求められるケースや不正な行為を行って国会で追及される事案が生じた場合であっても「職務の遂行上特に必要がある」との理由でいくらでも国会への出席を拒否することができるようになってしまうからです。

ア)憲法第63条が内閣総理大臣とその他の国務大臣に出席義務を課したのは国民への説明を尽くさせるため

そもそも現行憲法の第63条が内閣総理大臣とその他の国務大臣に対して「答弁又は説明のため出席を求められたとき」に「出席しなければならない」と国会への出席を義務付けているのは、もちろん内閣総理大臣とその他の国務大臣に国民への説明責任を尽くさせる必要があるからです。

日本は国民主権原理に基づく代表民主制を採用した民主主義国家ですから、主権の存する国民が積極的に政治参加することが求められますが、そのためには国(政府)がどのような政策を施行しようとしているか、またどのような法案を整備しようとしているか、あるいはその行政権行使に不正な点はないのか、など国民が「知る」ことは不可欠です。

そのため憲法は内閣総理大臣とその他の国務大臣に対して「答弁又は説明のため出席を求められたとき」に「出席しなければならない」と国会への出席を義務付けることで、国民の代表者である国会議員に追及(質問)できる場を与えるとともに、政府と行政の長である大臣に説明を尽くさせるようにしているわけです。

イ)「職務の遂行上特に必要がある」か否か判断するのは内閣総理大臣及びその他の国務大臣

しかし、自民党憲法改正草案第63条2項のように「職務の遂行上特に必要がある場合」にその出席を拒否できるとしてしまうと、内閣総理大臣とその他の国務大臣は自らの都合で自由に国会の出席を拒むことができるようになるので内閣総理大臣やその他の国務大臣に説明責任を尽くさせるために規定した憲法第63条が空文化してしまいます。

なぜなら、その「職務の遂行上特に必要がある」か否か判断するのは、国会での説明を求められる内閣総理大臣やその他の国務大臣なので、出席を求められた内閣総理大臣とその他の国務大臣が「職務の遂行上特に必要がある」と言いさえすれば、いくらでも自由に国会への出席を拒否できるようになるからです。

ウ)「職務の遂行上特に必要がある場合」に出席を拒否できるのなら都合の悪い説明を求められる場合はいくらでも出席を拒否できる

自民党憲法改正草案第63条が国民投票を通過すれば、内閣総理大臣とその他の国務大臣は仮に国会から説明を求められる事案が発生したとしても、自ら「職務の遂行上特に必要がある」と判断しさえすれば自由に出席を拒否することができてしまいます。

そうなれば、もはや国民は国会で内閣総理大臣やその他の国務大臣に説明を求めたい事案があったとしても、国民の代表者である国会議員に国会で質問させることができなくなってしまいますから、国(政府)の政策や提出された法案の不備や疑問、政府の不正などを追及することはできなくなってしまうでしょう。

たとえば今、日本学術会議法で105名を任命しなければならないと定められている学術会議の会員を99名しか任命していない菅首相の行為が違法状態となっていて大きな問題となっていますが、菅首相は「総合的・俯瞰的な観点」とか「人事に関する事項はお答えできない」などと意味不明な釈明を重ねるだけで全く説明責任を果たしていません(※参考→菅首相に学術会議の任命拒否で説明が求められるのはなぜなのか)。

こうした事案でも、菅首相が「職務の遂行上特に必要がある」と判断しさえすれば国会への出席を「拒否すること」が自由に認められるようになるわけです。

また、新型コロナウイルスの感染拡大への対処では政府が専門家の意見を無視していわゆる「GoToトラベル事業」など感染を拡大させる政策をとったことが医療崩壊を招いて大きな批判を浴びていますが、こうした事案でも内閣総理大臣や厚生労働大臣その他の国務大臣が「職務の遂行上特に必要がある」と判断しさえすれば国会を欠席して説明責任を果たさないことも憲法で認められることになるのです。

エ)内閣総理大臣とその他の国務大臣が国会における説明責任を果たさなくて良いのなら民主主義は容易に機能不全に陥ってしまう

しかしそれは、国民の代表者である国会議員が国会で内閣総理大臣やその他の国務大臣を追及し、政策の誤りを指摘したり政府の不正を暴くことが出来なくなってしまうということに他なりません。

仮にそうなれば、国民は真実を知る術を得られないまま、政府の垂れ流す大本営発表を粛々と受け入れるしかなくなってしまいますから、国民が国政の実情を「知る」ことで積極的に政治参加する機会も失われてしまう結果、国民の政治的意思決定も歪められてしまうことになるでしょう。

しかしそれでは、主権者である国民の自由な意思は国政に反映されなくなってしまいますから、民主主義は機能不全に陥ってしまいます。

そうした民主主義を破壊する作用を持つ「ただし書き」を憲法の条文として盛り込まなければならない必要がどこにあるのか、国民は冷静に考える必要があるでしょう。