自民党憲法改正案の問題点:第66条2項|元職業軍人が首相と大臣に

憲法尊重擁護義務(憲法第99条)を無視して執拗に憲法改正に固執し続ける自民党が公開している憲法改正草案の問題点を指摘していくこのシリーズ。

今回は、内閣構成員の資格について規定した自民党憲法改正草案第66条2項の問題点を考えてみることにいたしましょう。

文民条項に変更を加えた自民党憲法改正案第66条2項

現行憲法の第66条は内閣の構成と国会に対する責任に関する規定ですが、同条は第2項に内閣総理大臣とその他の国務大臣を「文民」に限定する規定を置いています。

この点、この第66条の規定自体は自民党憲法改正案にも引き継がれていますが、第2項の文民に関する規定(文民条項)に大きな変更がなされていますので注意が必要です。

では、具体的にどのような変更を行っているのか、現行憲法と自民党改正案の双方の条文を確認してみましょう。

日本国憲法第66条

第1項 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
第2項 内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、文民でなければならない。
第3項 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

自民党憲法改正草案第66条

第1項 内閣は、法律の定めるところにより、その首長である内閣総理大臣及びその他の国務大臣で構成する。
第2項 内閣総理大臣及び全ての国務大臣は、現役の軍人であってはならない。
第3項 内閣は、行政権の行使について、国会に対して連帯して責任を負う。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

このように、第1項と第3項については若干の文言の変更はあるものの文理的に大きな違いはありませんが、第2項で現行憲法では内閣総理大臣とその他の国務大臣を「文民でなければならない」としている部分が、自民党改正案では「現役の軍人であってはならない」と変更されているところに大きな違いがあります。

では、こうした文章の変更は具体的にどのような問題を生じさせるのでしょうか。検討してみましょう。

現行憲法が文民条項を置いた経緯とその趣旨および「文民」の意味

このように自民党憲法改正草案の第66条は現行憲法が規定したいわゆる「文民条項」に変更を加えていますが、その自民党改正案の問題点を考える前提として、現行憲法第66条2項の「文民条項」がなぜ憲法に規定されていてどのような経緯で条文として規定されたのか、またそもそもその「文民」とは何を意味するのかという点を理解しなければなりませんのでその点を簡単に確認しておきましょう。

(1)憲法に「文民条項」が必要とされる理由

この点、そもそもなぜ憲法にこうした「文民条項」が必要とされるのかという点に疑問を持つ人もいるかもしれませんが、それは軍人に政治への介入を許してしまうと軍事が政治に優越する結果を招き入れることになり、民主政治が機能不全に陥ってしまう危険があるからです。

軍隊を持つ国では、歴史的には軍隊の指揮権を持つ軍人の暴走によってたびたび軍隊が利用され本来守られる立場にある国民が抑圧されたり、軍人が政治に関与することで軍事を政治に優先させることが正当化され、国民の生命が軽視されて戦争や抑圧を招く原因ともなりました。

そうした反省から、あらかじめ軍事に対して民主的統制を加えておくことで軍事の暴走に歯止めを掛けておくべきとのいわゆる「文民統制の原則」が生まれることになり、立憲主義国家ではその法的根拠を憲法に規定することが求められるようになります。

こうした歴史的経緯や事情があったことから、戦後に制定された日本国憲法においても第66条2項に「内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、文民でなければならない」と規定して、軍人が政治に介入することを防ぐことにしたのです。

(2)現行憲法が「文民」の規定を置くことになった経緯

もっとも、日本国憲法は前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し…」と述べることで平和主義を宣言し、第9条2項で戦力の不保持を明記していますから、日本には「軍隊」が存在しないので「軍人」もいないことになります。

そうすると、なぜ「軍隊」や「軍人」を想定していない日本国憲法が、あえて「軍人」の存在を前提とする「文民」に関する規定を憲法第66条2項に規定しているのかという点に疑問が生じますが、それは現行憲法が制定される際、連合国の極東委員会から「文民条項」を入れるように求められたからです。

今述べたように、現行憲法は平和主義を採用していて9条もあり「軍隊」や「軍人」は本来的に予定されていませんから、現行憲法が制定される際に作られた憲法草案にも当初は第66条2項の「文民」規定は存在しませんでした。

しかし、憲法草案が帝国議会の衆議院に提出された際、衆議院の小委員会(いわゆる芦田委員会)が9条の草案の第2項の文頭に「前項の目的を達するため」という文章を付け加えたことが極東委員会に疑念を生じさせてしまいます。

憲法9条の文頭に「前項の目的を達するため」という文章が挿入されてしまうと、文理的には「自衛のためなら軍事力を持つことができる」という解釈が成り立つ余地が生じてしまうからです。

当時の日本政府(吉田内閣)は、現行憲法の憲法草案を議論した帝国議会で、憲法9条は「侵略戦争だけでなく自衛のための戦争も放棄した」と、また「自衛のための戦力も持つことが出来ない」との趣旨の説明をしていますから、その説明が帝国議会で承認を受けて現行憲法が決議されている以上、憲法9条は侵略戦争だけでなく自衛戦争も放棄されていて自衛のための戦力も持つことはできないと解釈しなければなりません(※この点の詳細は→芦田修正に基づく憲法9条の解釈はなぜ採用されないのか)。

そのため歴代の政府も憲法学の通説的見解もそうした解釈をとってきたわけですが、極東委員会の中には9条2項の文頭に「前項の目的を達するため」との文言が挿入されたことで「自衛のための戦力を持つ可能性が開かれた」と解釈する委員もいたことから、軍の文民統制を考慮して大臣資格を文民に限る規定を置くべきとの意見が出されました。

そうした事情から、GHQの要求もあり、帝国議会の貴族院に草案が提出された際に「内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、文民でなければならない」との文民条項が挿入されることになったのです(※高橋和之著「立憲主義と日本国憲法」放送大学教材306頁参照)。

(3)「文民」とは

このように、現行憲法は「軍人」を予定したものではありませんが、憲法制定当時に極東委員会の懸念があったことから内閣総理大臣とその他の国務大臣を「文民」に限るとする規定だけは明文として置かれています。

この点、ではその現行憲法第66条2項の「文民」が具体的に何を意味しているのかという点が問題となりますが、この「文民」の意味については大別して次の4つの学説で解釈に争いがあります。

  • ① 現在職業軍人でない者
  • ② これまで職業軍人であったことがない者
  • ③ 軍国主義思想に深く染まった者でなければよい
  • ④ 現在職業軍人でない者と、これまで職業軍人であったことがない者

このうち、「文民」が「civilian」の訳語であることを重視すれば文理的には①の学説が妥当とも思えますが、①の学説をとると戦前の職業軍人まで「文民」となってしまいますので解釈論としては妥当とは言えません。

先の戦争で軍部(職業軍人)が「統帥権の独立」の名の下に天皇の統帥権を利用して戦禍を拡大させてしまったことに鑑みれば、戦争の主導的立場にあった「かつて軍人だった人」の政治への関与を許容することはできないからです。

そのため、憲法9条が軍隊の保持を禁止している趣旨を徹底させる意味からも、憲法学の世界では②の説が多数説ないし通説的見解として採用されていたようですが(※芦部信喜著、高橋和之補訂「憲法」315~316頁、※高橋和之著「立憲主義と日本国憲法」放送大学教材227頁)、第二次田中内閣が2名の元職業軍人を入閣させてから以降は実務的には「軍国主義思想の持ち主でない者」であればよいとして③の説に近い取り扱いが採られるようになっています(※「法律学小辞典」有斐閣『文民』の項参照(※例えば元海軍少佐の中曽根康弘の入閣などもそうした取り扱いに従ったものでしょう))。

もっとも、現在ではシビリアンコントロール(民主的統制)の趣旨を徹底する立場から④の説を採用して、自衛隊が合憲か違憲かという問題は別にして「自衛官も文民ではない」と解釈する説が有力説となっているようです(※前掲芦部書316頁、前掲高橋書227頁)。

「元軍人」が内閣総理大臣や国務大臣になれるなら、軍事に対する民主的統制は効かなくなり政治は軍事に支配されることになる

以上で説明したように、現行憲法は「軍隊」や「軍人」を予定したものではありませんが、憲法制定当時の極東委員会の要求もあったことから、第66条2項に「内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、文民でなければならない」と規定することで、「軍人(※現在の解釈では自衛官も含む)」が内閣を構成して政治に関与することを防いでいます。

ところで、自民党憲法改正草案に話を戻しますが、自民党改正案の第66条2項は冒頭に挙げたように

内閣総理大臣及び全ての国務大臣は、現役の軍人であってはならない。

と規定しています。

この点、自民党憲法改正草案は「第9条の2」に国防軍の規定を置いていますから、この改正案第66条2項は、その自民党改正案9条の2が国民投票を通過した後に現在の自衛隊が組織変更されて設立される国防軍に所属する現役の職業軍人だけを内閣総理大臣と国務大臣から排除することを目的としたものと言えます(※自民党憲法改正草案の第9条の2の詳細は→自民党憲法改正案の問題点:第9条の2|歯止めのない国防軍)。

自民党憲法改正草案第9条の2第1項

我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

つまり自民党改正案は、憲法改正後に実現される国防軍に所属する「現役の職業軍人だけ」について、内閣総理大臣とその他の国務大臣になることを禁止し、その国防軍を辞めた後の「元職業軍人」については自由に内閣総理大臣や国務大臣になることができるようにしているのです。

しかしそれでは、前述した学説の①と同じですから、職業軍人が政治に関与することを防ぐことを目的とした「文民統制の原則」は全く機能しなくなってしまいます。国防軍を辞めて軍籍を離れるだけで内閣総理大臣や国務大臣に就任できるなら、国防軍の内部に影響力を持ったまま形式的に軍籍を離れて入閣することもできるようになるからです。

仮に自民党が軍事政権を作りたいと思う場合には、陸軍なり海軍なり空軍なりのトップを国防軍から形式的に離脱させておき、その「元職業軍人」を比例名簿に載せて当選させて国会で内閣総理大臣に指名して、その指名された「元職業軍人」の内閣総理大臣が他の「元職業軍人」を国務大臣に任命するだけで、国防軍に人脈と影響力を持つ軍事政権を実現することもできてしまうでしょう。

仮にそうなれば、「元職業軍人」に占められた内閣は軍事と政治が一体となる結果、国の政治は「元職業軍人」の介入によって支配される一方、軍事への民主的統制は全く効かなくなってしまいますから、「文民統制の原則」などもはや全く機能しなくなってしまいます。

それは当然、先ほどの(1)でも説明したように、軍事が政治に優越する結果となり、民主政治が機能不全に陥ってしまうということですから、立憲主義と民主主義を採用したこの国の統治システムは軍国主義に大きく傾斜していくことになるかもしれません。

すなわち、現行憲法の文民条項を廃して「内閣総理大臣及び全ての国務大臣は、現役の軍人であってはならない」と規定した自民党憲法改正草案第66条2項は、明治憲法(大日本帝国憲法)と同じように軍国主義を具現化することを可能にする規定であると言えるのです。

軍人が国政を掌握した戦前の統治システムに戻す必要がどこにあるのか

以上で説明したように、自民党憲法改正草案の第66条2項は「内閣総理大臣及び全ての国務大臣は、現役の軍人であってはならない」としていますが、こうした規定を置いてしまうと「元職業軍人」を内閣総理大臣や国務大臣に指名(任命)することも許されることになりますので、「軍事」による政治介入を招き入れる点で大きな問題があると言えます。

そうした統治システムは明治憲法(大日本帝国憲法)のそれと類似しますが、先の戦争は軍部の政治介入を許したことが国を破滅に導いたのですから、そうした過去の反省を顧みれば、そうした危険を招き入れる条文を憲法に規定すべきでないのは当然でしょう。

先の戦争の惨禍を忘れ、軍国主義に傾斜させる自民党憲法改正草案第66条2項は大変危険です。

「文民条項」をあえて挿入した現行憲法の第66条2項を削除し、そうした危険性を持つ条文を憲法に明記しなければならない理由がどこにあるのか。国民は冷静に考える必要があるでしょう。