新型コロナウイルスを緊急事態条項の憲法改正に結び付ける卑劣

スポンサーリンク

中国の湖北省から広がった新型コロナウイルスが猛威を振るっています。

この感染症の広がりに関して、某政党の国会議員による次のようなツイートがありました。

参議院本会議にて補正予算案可決。予算委では、新型コロナウィルスについて指定感染症の施行を早めるべきとの声が相次ぎました。憲法に緊急事態条項があれば!一部野党も逃げずに憲法改正の議論をすべき。立民の同性婚提案にも憲法上の課題あり。憲法審査会にて様々各党の提案をぶつけ合えば良い。

※出典:https://twitter.com/Matsukawa_Rui/status/1222843529346441217

また、直接的に新型コロナウイルスとは明言していませんが、新型コロナウイルスに関連するツイートに前後して次のようなツイートをした議員もいます。

憲法に緊急事態条項、やはり必要ですね。 法律が現状に対応出来ない、 そして我国は法治国家である現実 と、向き合っています。

※出典:https://twitter.com/takashinagao/status/1223075359446331392

その他にも、衆議院の議長を務める某政党の議員が、自身が主催する会合で緊急事態条項の導入を念頭に置きながら、新型コロナウイルスに関連して

「緊急事態の一つの例。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」

※出典:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202001/CK2020013102000138.html

と述べたと報道されていますし、31日午前の記者会見でも某政党のセクシーな某環境大臣が、新型コロナウイルスに関連して緊急事態条項を明記する憲法改正を求める意見が出ていることに関して

「私は憲法改正論者だ。社会全体の公益と人権のバランスを含めて国家としてどう対応するか、問い直されている局面だ」

※出典:https://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/200131/plt20013114270012-n1.html

と述べたと報道されています。

つまり、この国会議員(※2人目の議員はコロナウイルスと無関係に緊急事態条項の必要性を述べている可能性もゼロではありませんが…以下同じ)たちは、日本が新型コロナウイルスに対処するためには憲法に緊急事態条項を規定することが必要だと考えており、緊急事態条項がないから感染拡大の懸念が生じているのだと考えているわけですが、これは明らかに「的外れ」です。

以下、簡単に説明します。

スポンサーリンク

新型コロナウイルスはすでに存在する「法律」で対処できる

このページの冒頭に挙げた某政党の国会議員らは、新型コロナウイルスへの対処に憲法上の緊急事態条項が必要だという趣旨の発言(またはツイート)をしていますが、これは明らかに間違いです。

なぜなら、新型コロナウイルスは現在施行されている「法律」で対処できるからです。

現在の日本では、様々な感染症を予防しその感染拡大を防ぐために「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(※以下「感染症法」といいます)」が制定され施行されています。

この感染症法では、第6条でこの法律が適用される感染症として、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症などと細かく列挙しています。

たとえばエボラ出血熱やペスト、結核、狂犬病、インフルエンザ等々、数多くの感染症が列挙されていますが、ここには今回中国の湖北省から広がった新型コロナウイルスは列挙されていません。

もちろんそれは当然です。新型の感染症は、それが確認されるまで法律で規定することは不可能だからです。

では、今回の新型コロナウイルスにこの法律が適用できないかというと、もちろんそんなことはありません。

たとえば「第五類感染症」であれば同条6項9号で「前各号に掲げるもののほか…(中略)…厚生労働省令で定めるもの」と、「一種病原体等」であれば20項6号で「前各号に掲げるもののほか…(中略)…政令で定めるもの」と、「二種病原体等」であれば同条21項7号で「前各号に掲げるもののほか…(中略)…政令で定めるもの」と、「三種病原体等」であれば同条22項4号で「前三号に掲げるもののほか…(中略)…政令で定めるもの」と、「第四種病原体等」であれば同条23項11号で「前各号に掲げるもののほか…(中略)…政令で定めるもの」と、「指定感染症」であれば同条8項で「既に知られている感染性の疾病(中略)であって…(中略)…国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう」と規定されているからです。

つまり、この感染症法に列挙されていない感染症等が新たに発見された場合であっても、政令(一部は省令)でその感染症を指定することで、この感染症法を適用させることができる構造になっているわけです。

ではなぜ、そのような構造で立法されているかというと、それは未知の感染症が発見されたときに迅速に対処できるようにするためです。

未知の感染症が発見されてから議会で議論し可決してその感染症をこの感染症法に追加しようとすれば何か月もかかってしまいますから、迅速な対応ができません。

しかし、その感染症等の指定を政令や省令にあらかじめ委任しておけば、未知の感染症が発見された時点で内閣(省令の場合は厚労大臣)が国会の決議を経ずに命令として決定できるので迅速にこの法律を適用させることができます。

そのため感染症法では、あらかじめ列挙されていない感染症が発見された場合にそなえて、その感染症の指定を政令(一部は省令)に委任しているわけです。

ですから、今回猛威を振るっている新型コロナウイルスについても、政府が政令(または省令)で指定することにより、この感染症法における感染症として対処することは十分可能なのです。

感染症法でどんな対応ができるのか

では、今回の新型コロナウイルスを内閣(政府)が政令(または省令)で感染症に指定することでどのような対処ができるかというと、それもこの感染症法に規定があります(※条文は→https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=410AC0000000114)。

具体的には、都道府県知事や厚生労働大臣からその感染症等への感染者やその感染が疑われる人に対して、たとえば同法の第16条の3では抗体の採取等をすることを、同法17条では医師の診察や健康診断を受けさせることを、同法18条では仕事を休ませることを、19条と20条では入院させることを、21条ではその病院を移送させることを、22条では退院させることを認めています。

もちろん、これらは「感染症の患者等の人権を尊重しなければならない(同法第3条)」とされていますので、憲法で保障された基本的人権に最大限配慮しなければなりませんが、その公共の福祉の範囲で対処し、その感染の拡大を防ぐこともできるわけです。

なお、政府が政令(一部は省令)で指定感染症等に指定した場合には、出入国管理法第5条によって感染者又は感染の所見がある者の上陸(入国)を拒否することができますので、政府が新型コロナウイルスを政令で指定感染症に指定するだけで、新型コロナウイルスに感染し又は感染の所見がある外国人の入国を制限することも可能です。

出入国管理及び難民認定法第5条1項

次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
第1号 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(中略)に定める一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症若しくは指定感染症(中略)の患者(中略)又は新感染症の所見がある者
第2号(以下省略)

今回の新型コロナウイルスに対する日本政府(安倍内閣)の対応

このように、今回猛威を振るっている新型コロナウイルスに対しては、既存の感染症法という「法律」で対応が可能です。

では、政府(安倍内閣)の対処はどうだったのでしょうか。

この点、報道によれは、

政府は、新型コロナウイルスによる肺炎を感染症法上の「指定感染症」とする政令の施行期日を2月7日から同1日へ前倒しする方針を決めた。

※出典:時事通信1月31日付 https://www.jiji.com/jc/article?k=2020013100368&g=pol

などと報じられていますので、2月1日付で今回の新型コロナウイルスが政令によって感染症法上の指定感染症に指定されることになり、感染の疑いのある人などに対して検査や入院などを強制させることが、またそれに感染し又は感染の所見が見られる外国人の入国を制限することが、法的に認められるということになります。

安倍政権による指定感染症への指定は迅速だったのか

では、この政府の対応は迅速に行われたのでしょうか。

この点、国立感染症研究所のウェブサイト(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html)によれば、今年(2020年)の1月7日に中国当局が新種のコロナウイルスを検出したと世界保健機関(WHO)が発表したとされています(※もっとも、症例は昨年の12月から報告されています)。

ですから、中国当局とWHOの発表がなされてから日本政府が指定感染症として政令で指定するまで約3週間以上が経過していたことになります。

この政府の判断が遅かったのか早かったのか、それは私にはわかりません。ですから、その点はこの記事をお読みの皆さんが各自で判断するか、専門家の評価を待つしかないでしょう。

新型コロナウイルスの対処に憲法改正や緊急事態条項は必要ない

以上で説明したように、今回猛威を振るっている新型コロナウイルスについては、政府が政令で指定感染症に指定するだけで既存の感染症法という「法律」で対処することが可能です。

今回の新型コロナウイルスに対処するために「憲法」の改正など関係がありませんし、ましてや緊急事態条項など全く必要ないのです。

ですから、このページの冒頭にあげたように新型コロナウイルスの対処に憲法改正や憲法への緊急事態条項の必要性を訴える某政党の国会議員らの主張は、明らかに的外れなものだということが言えます。

なお、この某政党の議員らはいずれも国会議員ですから、この感染症法の存在は知っておいてしかるべき存在です。

もちろん、国会議員と言えども日本で施行されている法律をすべて熟知しているわけではありませんからこの法律の存在を知らなかった可能性もありますが、仮にその存在を知らなかったとしても、国会議員なのですからメディアやツイッターで発言する前に法律の有無を調べて確認するのは当然でしょう。

そうすると、この議員らは当然この感染症法の存在を知っていたと推認されますから、新型コロナウイルスの対処に憲法改正や緊急事態条項など全く必要ないことなど百も承知のうえであえて、新型コロナウイルスの対処に緊急事態条項を明記する憲法改正が必要だなどとトンチンカンな主張をしたということになります。

もし仮に、彼らがこの感染症法の存在と政令で指定感染症に指定することで新型コロナウイルスの対処ができることを知らずにその主張をしたのなら、ただのバカになってしまいます。

死者が出ている感染症を自分たちのイデオロギー実現のために利用する恐ろしさ

ところで、今回の新型コロナウイルスについては世界中で感染者が拡大しており、海外ではすでに死者も出ています。

にもかかわらず、この国会議員らはその対処に全く関係のない緊急事態条項や憲法改正の話を持ち出して、国民に緊急事態条項の必要性をアナウンスしました。

つまりこの議員らは、死者が出ている感染症を「憲法を改正したい」「憲法に緊急事態条項を明記したい」という自分たちのイデオロギー実現のために利用したわけです。

自分たちのイデオロギー実現のためならば、大切な人命が失われた感染症を利用することもいとわない国会議員。

憲法を遵守して、国民の生命と財産を守るべき立場にある国会議員が、実際に死者が出ている感染症を自分たちのイデオロギー実現のために利用してしまう国が今の日本です。

本当に恐ろしいのは未知の感染症ではなく、既知の政党、既知の国会議員なのかもしれません。



【PR】憲法を短期間で効率よく学ぶには資格試験予備校が主催する司法試験や司法書士、公務員試験の「憲法の講座だけ」を受講してみるのも効果的。ウェブ上で憲法が学習できる通信講座としてはスマホ・PCで学べる【通勤講座】資格試験のオンライン講座【資格スクエア】、東京リーガルマインドの【LEC学習センター】などが有名です。
9条(戦争放棄・戦力/交戦権の否認) 憲法道程の問題点
スポンサーリンク
この記事をシェアする
この記事を読んだ人にはこんな記事も読まれています。
スポンサーリンク
スポンサーリンク
憲法道程