日本国憲法は「占領軍に銃剣を突きつけられて」制定されたのか

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憲法の改正を積極的に推し進めようとしている人たちの中に、いわゆる「押しつけ憲法論」の立場から「現行憲法は占領軍に銃剣を突き付けられた状態で制定されたものだから無効だ!」などという主張を展開して憲法改正の正当性を論じる人が大勢います。

現行憲法の日本国憲法は、日本がポツダム宣言を受諾した後に行われた総選挙で当選した議員が帝国議会で審議し可決して成立していますが、その期間は連合国の軍隊によって占領統治された状態にありました。

日本が軍事的に占領されていたのであれば、当時の国民と日本政府が望むか望まないかにかかわらず「銃剣を突き付けられた状態」で、新憲法(現行憲法)を強制的に受け入れさせられたかのようにも思えてしまいます。

そのため、現行憲法に不満を持つ一部の人たちは、現行憲法の成立過程で占領軍に「銃剣を突き付けられ」て暴力に支配された状態で無理やり制定させられた憲法は無効だという理屈で、憲法改正を正当化しようとしているわけです。

では、現在の日本国憲法は、本当に彼らが言うように占領軍に「銃剣を突き付けられた状態」で強制的に、その意思に反して無理やり「押し付けられた」ものなのでしょうか。検討してみます。

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「銃剣を突き付けられて強制させられた」事実はない

このように「現行憲法は占領軍に銃剣を突き付けられて制定されたものだから無効だ!」といういわゆる「押しつけ憲法論者」の主張は、当時の国民と国会議員は「銃剣を突き付け」られた状態にあったので、現行憲法に「反対しようにも反対できない状況にあった」という事情をその主張の基礎においています。

つまり、当時の国民と国会議員は占領軍に「銃剣を突き付けられた」状態にあり、新憲法(現行憲法の日本国憲法)の制定に反対すれば、その銃剣で「殺されてしまう」ので反対したくても反対できなかった、という理屈です。

しかし、このような理屈は端的に言って成立しえません。なぜならそのような「銃剣を突き付けられ」て新憲法を強制させられたような事実はそもそも存在しないからです。

(1)8人の議員は帝国議会の議決で反対票を投じている

現行憲法の成立過程については『日本国憲法が制定されるまでの過程とその概要』のページで解説しましたが、現行憲法はその成立過程で帝国議会の議決を経ており、その衆議院における評決は「賛成421票」という圧倒的多数の賛成で可決されています。

しかしその議決は全会一致で可決されたわけではありません。反対票も「8票」ありましたから、全体の8人は新憲法に明確に反対しています。

その内訳は、新政会の1名、無所属倶楽部の1名、日本共産党の6名ですが、この8人は明確に新憲法(現行憲法の日本国憲法)の成立に反対しているわけです。

ではなぜ、この8人は反対票を投じることができたのかというと、それはもちろん「銃剣を突き付けられた」というような事実はなかったからです。いわゆる「押しつけ憲法論者」が言うように「銃剣を突き付けられた」状態にあったのであれば反対票を投じた時点で逮捕されるか銃殺されてしまいますので、彼らは新憲法に反対することなど到底できなかったでしょう。

確かに、当時の日本は占領軍が軍事的に占領した状態にありましたが、新憲法の制定に関しては、当時のマッカーサーや極東委員会(連合国)においては、日本の「自由な意思の表明」によって制定されることに細心の注意が払われていました。

ポツダム宣言には「日本国国民の自由に表明せる意思」に従って平和的傾向を持った責任ある政府が樹立されることが明記されていましたので、連合国が新憲法の成立に武力をもって関与してしまえば、連合国が軍事力の恐怖で日本の統治体制を変更させてしまうことになり、世界から非難を受けてしまうからです。

当時はソ連の共産主義と米英の自由主義陣営で覇権争いが生じていましたが、占領軍が「銃剣を突き付け」て日本の国会の決議や総選挙に介入してしまえば、アフリカや中東、東南アジア諸国などは連合国が武力介入によって政治体制の変更を迫ってくること警戒して自分らの陣営に入って来なくなり、世界の覇権争いで後手を踏んでしまいます。

当時の連合国の置かれた状況を考えれば、占領軍が「銃剣を突き付け」て自分らの考える憲法を日本に「押し付け」るなどということはありえないわけです。

そもそも、本当に彼らが言うように「銃剣を突き付けられた」事実があるのなら、衆議院の決議で反対票を投じたこの8人は全て逮捕されるか銃殺されていなければ話の辻褄が合いませんが、そのような事実もありません。

ですから、新憲法の成立過程で当時の国民や国会議員が占領軍から「銃剣を突き付けられた」というような主張は明らかに「嘘」と言えます。

(2)共産党は解党させられてもいない

「銃剣を突き付けられた状態にあった」というのが嘘なのは、共産党が今も存続している事実からも明らかであることが分かります。

先ほど説明したように、共産党はその6人全員が新憲法(現行憲法)の制定に反対していますので、もし本当に当時の占領軍が「銃剣を突き付け」て新憲法の制定を強制していたというのであれば、共産党は占領軍によって解党させられたはずでしょう。

しかし共産党は今でも継続して存続し活動しているのは周知の事実です。当時の国会議員が「銃剣を突き付けられ」て新憲法に賛成するように迫られたというような事実がなかったことは、共産党が今も活動していることを考えても明らかといえます。

(3)野坂参三氏は「徹子の部屋」に出演している

ちなみに、その帝国議会の議決に反対した共産党の野坂参三議員などは、新憲法(現行憲法)の草案を国会に提出した当時の吉田首相に対して衆議院で厳しい反対意見などを述べていますが(※たとえば→「侵略戦争しないから9条は改正してもよい」が間違っている理由)、その後も長生きして「徹子の部屋」などにも出演されています(※参考→野坂参三|Wikipedia)。

もし本当に「押しつけ憲法論者」が言うように「銃剣を突き付けられた」ような事実があったのであれば、新憲法の成立に反対意見を表明し国会で反対票を投じた野坂参三議員などは占領軍に逮捕されるか銃殺されていなければなりませんが、なぜ「徹子の部屋」に出演できるまで長生きできたのでしょう。不思議です。

ですから、このような事実を考えてみても、日本国憲法が「占領軍に銃剣を突き付けられて制定されたんだ」というような主張は、明らかに嘘であることが分かると思います。

「銃剣を突き付けられた」は都市伝説にもならない幼稚な詭弁

以上で説明したように、現行憲法が制定された当時の日本は占領軍に軍事的に占領された状態にあったことは事実ですが、その占領軍に国民や国会議員が「銃剣を突き付けられていた」ような事実はありません。

当時の選挙は自由な意思の表明が国民に担保されていましたし、帝国議会でも自由な意思の表明が国会議員に保障されていましたから、制定された新憲法(現行憲法)は占領軍によって「銃剣を突き付けられて制定された」ものではなく「日本国民の自由な意思の表明」によって制定されたのは明らかです。

いわゆる「押しつけ憲法論者」の言う「銃剣を突き付けられて制定された憲法は無効だ!」という主張は、無知というよりも自分たちの憲法改正を実現したいというイデオロギー実現を正当化したいがためだけの勝手我儘で幼稚な詭弁に過ぎませんので(※参考→「押しつけ憲法論」が明らかに嘘と言える15の理由)、そのような戯言に惑わされないように十分な注意が必要です。