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自民党憲法改正案の問題点:第98,99条|緊急事態宣言で独裁国家に

【2】自民党憲法改正案第99条の問題点

次に自民党憲法改正草案の第99条の問題点を検討します。自民党憲法改正案第99条の問題点としては、大別して次の(1)~(4)の点を指摘できます。

(1)第99条1項の問題点…内閣が政令で国民の自由や権利を制限できてしまう

自民党憲法改正案第99条1項の大きな問題は、内閣が法律と同一の効力を有する政令を制定することができるとしている点です。

自民党憲法改正草案第99条1項

緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

政令は内閣の閣議決定で出すことができますから、この自民党案が国民投票を通過すれば、行政府の長であるところの内閣が、立法府(国会)の決議を経ることなく法律と同一の効力を有する政令を出すことで、法律と同等の強制力を国民に強いることができるようになるわけです。

しかしそれは、国の立法権がすべて内閣に取り上げられてしまうということです。この規定があれば内閣は自由に国民の自由や権利を制限し義務を課すことのできる法律を政令という形で出すことができますから、緊急事態の宣言が出されれば、内閣は国会の承認を得ることなく、その政令でいくらでも国民を抑圧することができるようになるでしょう。

そうした危険な条文を新設し、強力な権力を内閣に与えることに同意するのか。国民は十分に考える必要があるでしょう。

(2)第99条2項の問題点…事後承認では国会のチェック機能が働かない

改正案第99条2項は、前述【2】-(1)で解説した内閣が法律と同一の効力を有する政令を出す際の国会の承認についての条文です。

自民党憲法改正草案第99条2項

前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

この規定は、緊急事態宣言にともなって内閣が出す政令にかかる国会のチェックを事後承認で足りるとしていますので、緊急事態の宣言について国会の事後承認で足りるとした改憲案第98条2項の問題点と同じ問題点を指摘できます。

具体的には、事後承認で足りるとしてしまうと、国会のチェック機能は働かず、本来無効であるはずの政令が国会で否決されるまで執行されてしまうので、国民の自由や権利が大きく制限されてしまうという問題です。

この点は既に”【1】-(2)”で説明していますのでここでは繰り返しませんが(※詳細は前述の ”【1】-(2)” を再読してください)、こうした規定は国会のチェック機能が働かないばかりか、本来無効であるはずの政令を国会の議決まで執行できる根拠にされてしまう危険性もあります。

自民党憲法改正案の緊急事態条項はすべての国会決議に事後承認で足りるとしていますが、国会承認手続(立法府)の形骸化は、民主主義を破壊するだけではないでしょうか。

(3)第99条3項の問題点…緊急事態宣言の下で基本的人権は全く尊重されない

改正案第99条3項は、緊急事態の宣言が出された際に、国民を国が行う措置や指示に従わせるための規定です。

自民党憲法改正草案第99条3項

緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

この点、この規定は後段で「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」と規定されていますから、一見すると緊急事態の宣言が出される場合であっても、国民の基本的人権が十分に守られるかのようにも思えます。

しかしそう考えるのは危険です。なぜなら、自民党憲法改正草案の第14条(法の下の平等の規定)、第18条(身体の拘束及び苦役からの自由の規定)、第19条(思想及び良心の自由の規定)、第21条(表現の自由の規定)、その他基本的人権に関する諸規定は、全て「公益及び公の秩序」の為に制限できる構造で条文化されているからです。

この点については、それぞれ別のページで詳しく解説していますのでここでは詳述しませんが(※詳細は下のリンクから各記事を参照してください)、自民党憲法改正案で国民に保障される基本的人権は「公共の福祉」ではなく「公益及び公の秩序」の下で制限することができるように規定されています。

現行憲法で基本的人権は「公共の福祉」の範囲でしか制約が許されないものですが(※「公共の福祉」の意味については→自民党憲法改正案の問題点:第12条|人権保障に責務を強要)、自民党改正案で保障される基本的人権は、「公益」や「公の秩序」の要請があれば、国家権力がいくらでも制限してよいことになっているわけです。

しかし、「公益」は「国益」の言い換えであり、「国益」とは「国の利益」で「国」とはその運営をゆだねられている「政府」のことであって「政府」を形成するのは政権与党、現状では自民党ということになりますから「公益に反する権利行使は制限され得る」という文章は「政府(政権与党の自民党)の利益に反する権利行使は制限され得る」という文章になります。

また、「公の秩序」は「現在の一般社会で形成される秩序」のことであって現在に生きる多数派によって形成されますが、その現在の多数派は自民党ということになるので「公の秩序に反する権利行使は制限され得る」という文章は「政府(政権与党の自民党)のつくる秩序に反する権利行使は制限され得る」という文章になってしまいます。

つまり、自民党改正案は人権の制約原理を「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」に変えることで、政府(政権与党の自民党)の方針に反する基本的人権の行使を、政府(自民党)の判断で自由に制限できるようにしているのです。

そうなると、たとえ自民党改正案第99条3項に「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」と規定されていたとしても、同改正案の緊急事態条項によって出される緊急事態宣言は「公益(政府の利益(※自民党の利益))」または「公の秩序(政府の秩序(※自民党の秩序))」を維持するためのものなのですから、緊急事態宣言が発せられれば、国は国民の基本的人権を「公益及び公の秩序(政府の利益や政府の秩序(自民党の利益や自民党の秩序))」の下にいくらでも制限することができてしまいます。

つまり、自民党憲法改正草案の第99条3項は「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」と規定されていますが、自民党改正案の下では「公益及び公の秩序(政府の利益や政府の秩序(自民党の利益や自民党の秩序))」の下で基本的人権を制限することが認められているので、「公益及び公の秩序」を維持するための緊急事態条項として規定された改正案第99条の下では「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されない」と規定されているのと変わらないのです。

百歩譲って「最大限に尊重されなければならない」という文章のとおり政府が基本的人権を「最大限に尊重」すると考えたとしても、「最大限に尊重しなければならない」という文章は単に政府に努力義務を課したに過ぎず、その基本的人権を「最大限に尊重」したか否かを判断するのは政府なのですから、政府が「最大限に尊重した」と判断した範囲で基本的人権を尊重すれば足りる結果、結局は政府が「最大限に尊重した」と判断すれば、国民の基本的人権をいくらでも制限できるようになってしまうでしょう。

このように、自民党憲法改正草案の第99条3項は緊急事態宣言の下でも国民の基本的人権が最大限尊重されるかのような体裁を整えていますが、「公益及び公の秩序」の下で基本的人権を制約することを認めている自民党憲法改正草案の下ではそもそも国は「公益及び公の秩序」の下で基本的人権をいくらでも制限できるので、「公益及び公の秩序」を維持するために緊急事態宣言が発せられれば、国は自由に国民の基本的人権を制限することが可能であって、基本的人権が最大限に保障されることはあり得ません。

自民党憲法改正草案第99条3項の規定は、条文の文言とは正反対の解釈が導かれることになりますので、表面上の文面に騙されてしまわないよう注意が必要です。

(4)第99条4項の問題点…国政選挙が無期限に停止される

最後に、改正案第99条4項の問題点を検討しますが、4項は緊急事態宣言が発せられた場合に衆議院の解散を停止するとともに、衆参両議院の議員の任期と選挙日を延長させるための規定を置いています。

自民党憲法改正草案第99条4項

緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

※出典:自由民主党日本国憲法改正草案(平成24年4月27日決定)|自由民主党 を基に作成

しかしこれは大変危険です。いったん緊急事態が宣言されれば、無期限に国政選挙を停止することもできてしまうからです。

前述したように、いったん緊急事態宣言が出されれば改正案第98条3項の規定によって延々と宣言を延長することができますから、衆議院の解散を停止できるとした改正案第99条4項と合わせれば、緊急事態宣言が出された時点の衆議院議員が延々と議員を続けることができます。また改正案第99条の4項は「両議院の任期」の特例を設けることも認めているので衆議院だけでなく参議院の議員の任期も永延に延長することができてしまうでしょう。

仮にそうなれば、緊急事態宣言が出された時点の国会議員によって延々と国政が牛耳られてしまいますから、もはや政権交代など不可能になり、緊急事態宣言を出したときの政権与党が延々と政権をたらい回しにするだけの国家になってしまいます。

もちろんそれは、一党独裁国家に他なりませんから、自民党憲法改正草案第99条4項は一党独裁国家を許容する条文であって、一党独裁国家を実現させるために設けられた条文とも言えます。

そうした独裁政権を目論む憲法改正草案を堂々と公開している国政政党が存在する危険性にすべての国民が早急に気付く必要があるのではないでしょうか。

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自民党憲法改正草案第98条と99条は自民党一党独裁政権を実現させるためのもの

以上で指摘してきたように、自民党憲法改正草案は第98条と第99条に緊急事態条項を新設していますが、この規定は諸外国の緊急事態条項とは異なり、その緊急事態の対象が曖昧で広範囲に過ぎるうえ、国会の事前チェックも働かない構造にされており、国民の基本的人権を無制限に制約することを認めているうえ、宣言を無期限に延長することも可能にされていて、衆議院の解散と選挙を停止して一党独裁国家を実現させることが可能にされている点で極めて危険な条文となっています。

この自民党憲法改正草案における緊急事態条項は民主主義を否定し立憲主義を破壊するものであって、この規定を憲法改正案に盛り込もうとする行為は、憲法改正に名を借りたクーデターとも言えるかもしれません。

そうした危険な規定を憲法に新設することが、我々国民と将来のこの国に何を及ぼすか、十分に考える必要があるでしょう。